2018/05/28
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スペシャルコラムドラッカー再論
第123回
目標は自らが設定する~ドラッカーが広めた「自己目標管理(MBO)」。(中編)
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
マネジメント・レターは「当人にとっての憲章となる」だけでなく、部下に対して行っている要求の矛盾も明らかにする。
「スピードと品質のいずれかを選ばなければならないときに、両方を要求している。主体的にやれといいながら、いちいち文句をつけている。アイデアを出せといいながら、採用するどころか検討したこともない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
こうしたことが通常で、これらのことが人のやる気を奪っている。
もちろん、マネジメント・レターがこれらのことをなくすことはできない。しかし、こうした問題点や課題を明るみに出すことはできる。そしてどこで妥協し、目標を再考し、優先順位を決め、仕事の仕方を変えるべきかを教えてくれる。
このマネジメント・レターの働きが示すように、マネジメントの人間をマネジメントするには、正しい方向づけを行うだけでなく、間違った方向づけをなくすための特別な努力が必要だ。
ドラッカーは、相互理解は下方へのコミュニケーションによって得られるものではないし、下方に向かって話すことで得られるものでもなく、それは上方へのコミュニケーションによって得られると語る。
要は、上司が耳を傾け、部下の声が上司に伝わる仕組みが必要なのだ。
「自己目標管理(MBO)の最大の利点は、自らの仕事を自らマネジメントできるようになることにある。自己管理が強い動機づけをもたらす。適当にこなすのではなく、最善を尽くす願望を起こさせる。目標を上げさせ、視野を広げさせる。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
MBOの値打ちは、支配によるマネジメントの代わりに、自己管理によるマネジメントを可能にするところにある。
自らの仕事ぶりを管理するには、自らの目標を知っているだけでは充分ではない。目標に照らし合わせて自らの仕事ぶりと成果を評価できなければならない。
「したがって、あらゆる分野にわたって、自己評価のための明確な情報を与える必要がある。それらの情報は数字である必要はない。厳密である必要もない。しかし明瞭でなければならない。意味があり、かつ直截でなければならない。難しい説明や解釈を必要としない平易なものでなければならない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
このため、ドラッカーは、あらゆる従業員が自らの仕事ぶりを測定するための情報を手にすることが不可欠であると強調する。しかも、必要な手立て・措置がとれるよう、それらの情報は早く提供されなければならない。
この観点で、昨今のIT基盤の普及・進展は、MBOを理想的なかたちで成り立たせるために大きく寄与していると思う。現場の商談情報から生産工程や物流工程の情報、更には各種の会計関連情報、財務情報までが、スピーディに管理・処理できるようになり、即時で確認・分析できるようになっている。
「オープンブックマネジメント」と言うが、主要な経営情報・事業情報を誰もがダイレクトに見れるようにする経営は、MBOと表裏一体だ。
「情報能力の増大は、効果的な自己管理を可能にした。情報がそのように使われるならば、マネジメントの成果も大きく向上するはずである。しかしこの情報能力の増大が、上からの管理に利用されるならば、マネジメント全体の志気を下げ、マネジメントの成果は深刻ともいうべき低下を見せることになる。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
経営者は、「情報を握っていることが権力となっていた」昭和の時代の管理職を一掃しなければならない。情報民主主義こそ、従業員一人ひとりが、主体的・自律的に働き成果を出してくれるようになるための、絶対に守らなければならない土台なのだ。
(続く)
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