2017/05/15
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スペシャルコラムドラッカー再論
第73回
戦略計画「ではないもの」は何か?:解説編
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
(1)第一に、戦略計画は魔法の箱や手法の束ではない。思考であり行動である。
我々は戦略立案に当たって、様々な戦略フレームワークやツールを使うことが多い。しかし、それらはあくまでも手段であって、必ずしも戦略手法が必要であるともかぎらない。
「戦略計画とは、意思決定に科学的な方法を適用することでもない。それは、思考、分析、想像、判断を適用することである。手法ではなく責任である。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
何か綺麗な戦略フレームやモデルに沿った計画を絵を描くと(描かれたものを見せられると)あたかもすごそうに感じたり、それでなにかが達成されたような勘違いをすることがある。
気を付けよう。
(2)第二に、戦略計画は予測ではない。未来は予見できない。予測が当てにならないことはすぐにわかる。
ドラッカーは、予測可能だという人がいるならば、その人に今日の新聞を見せて、10年前にどれが予測できたかを聞け、という。
確かに。10年前にはiPhoneは存在していなかった。10年前に我々は、今日、誰もがスマホを片時も手放せなくなっている日常を、予測していただろうか。
また、計画が予測でないもうひとつの理由として、ドラッカーは、企業家の関心事は予測(=可能性の範囲を見つけようとするだけのもの)ではなく、可能性そのものを変えることにあるからだと言う。
「企業は、予測の基礎となる可能性そのものを変えなければならない。したがって、企業に未来を志向させるうえで予測は役に立たない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
我々は、未来を予測するのではなく、自ら関与し未来を創るのだ。
(3)第三に、戦略計画は未来の意思決定に関わるものではない。それは、現在の意思決定が未来においてもつ意味に関わるものである。
これは(2)につながるが、我々は「将来どうするか」を決めている訳ではない。いま意思決定したことによって、未来が創られるのだ。
「意思決定が存在しうるのは、現在においてのみである。計画において重要なことは、明日何を行うかを考えることではない。明日のために今日何を行うかを考えることである」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
重要なことは、未来において何が起こるかではなく、どのような未来を今日の思考と行動に織り込み今日の意思決定を行い、そのことによって未来を自らの手で創出するか、なのだ。
(4)第四に、戦略計画はリスクをなくすためのものではない。最小にするためのものでさえない。そのような試みは、最後には、不合理かつ際限ないリスクと破滅を招くだけである。
「経済活動とは、現在の資源を未来に、すなわち不確実な期待に賭けることである。経済活動の本質とはリスクを冒すことである。ベーム=バベルクの法則によれば、生産手段が経済的な成果をもたらすのは、不確実性すなわちリスクの試練を受けたときだけである」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
ドラッカーは、実は、計画が成功するということは、より大きなリスクを負担できるようになることであると述べる。
より大きなリスクを負担できるようにすることこそ、企業家としての成果を向上させる唯一の方法なのだ。確かに。
「しかしそのためには、冒そうとしているリスクを理解しなければならない。いくつかのリスクから最も合理的なものを選ばなければならない。勘や経験に頼ることはできない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
戦略計画とは、未来のシナリオに積極関与し、幾つかの選択シナリオの中から合理的リスクを取り、今日の思考、意思決定、行動をもたらすためのもの——整理すればこうなるが、しかし、本質を理解しつつも、具体的に自社に落とし込もうとすると、なかなかタフな作業であることもまた、事実だ。