2016/08/29
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スペシャルコラムドラッカー再論
第40回
中堅企業のトップマネジメント。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
このステージの企業にとってのトップマネジメントとは、いかなるものなのだろうか?
「中企業は多くの点で理想的な規模である。大企業と小企業双方の利点に恵まれている。誰もがお互いを知っており、容易に協力できる。チームワークは、特別に努力しなくともひとりでに生まれる。誰もが、自らの仕事が何であり、期待されている貢献が何であるかを知っている。資源は充分にある。したがって、基幹活動を行うことも、卓越性が必要な分野で他に秀でることもできる。規模の経済を手にするだけの大きさもある。それは中流である。産業社会にあって最も安定しており、最も優雅であり、最も生産的である」(『マネジメント——課題、責任、実践』、1973年)
なんだか、こう聞くと、企業として最もバラ色の立ち位置が中堅企業のようで、うらやましくも、ワクワクもしてくる。
確かに中堅企業は、企業としての一定以上の市場内パフォーマンスを獲得済みであり、社会において自社の存在をしっかり築いている。
ドラッカーが言う通り、それでいて、まだ社内については、僕はよく使う言葉なのだが、「手触り感」がある、要するにすみずみまで自分で見渡し直接関わることができる規模である。
自社の事業、商品・サービスについて、しっかりとした特長を持っているし、それを全社員が自覚することも容易だ。
であれば、このステージにいれば、マネジメントとしての問題は起きないのかといえば、そうは問屋が卸さない。
ひとつは、単一の職能別組織でいくにはすでに組織が大きすぎ、分権連邦組織にするには気を付けないと冗長になる。単一製品・単一市場の中企業の場合はしたくとも分権連邦体制にする事業がない。
チーム型トップマネジメント組織を構築しなければならないステージにあるが、全体(全社)のトップマネジメントチームと部門の長、部門のマネジメントチームをしっかり分けることが必要だと、ドラッカーは言う。
部門の責任者にしっかり最終判断と責任を委譲し(取らせ)、全社のトップマネジメントチームがその個別最終判断に口を出してはいけない。一方で、トップマネジメントチームは、全社視点での経営判断を行う必要がある。
これは、言うのは簡単だが、実際の中堅企業においての実行は相当に難しいことだと思う。なぜなら、部門の責任者とトップマネジメントチームは、多くの中堅企業の場合、兼任される(意識としては、兼任、というよりも、部門の責任者を以ってトップマネジメントチームを構成する、というほうが実態に近いだろう)からだ。
ひとつの典型的な体制イメージを共有するならば、CEO・COO・CFO/社長・副社長については事業部門担当は一切外し、これをトップマネジメントチームとし、他の事業部・機能組織部門についてはそれぞれの執行トップが各マネジメントチームを組成するという体制だろう。
さて、ドラッカーは、中企業が気を付けるべきことは「肥満」だと言う。
「脂肪と筋肉、売上高と業績を混同することのないよう常にきをつけなければならない」(『マネジメント——課題、責任、実践』)
「中企業の成功の秘訣は集中にある。(中略)卓越性が必要な分野では、中企業は、あたかも大企業であるかのように行動したほうがよい。それは強みを必要とする分野である。しかしそうでない分野は、最小限のことしか行うべきではない。中企業とは、特定の重要な分野においてリーダー的な地位にある企業である。この地位を維持することこそ、中企業にとっての成功の鍵である。散漫は失敗を招く」(『マネジメント——課題、責任、実践』)
ある程度以上の力と体力を持つ中堅企業だからこそ、それを強みとした特長ある事業強化ができるところは伸びるし、しかし、少なくない中堅企業は、その強みを活かすのではなく、散財してしまい、やらなければ良かった新規事業に手を出したり、自社のコアを希釈してしまうようなことにリソースを使いがちだ。
「中企業には自己規律がなければならない。もてる資源のすべてをあげて、成功の基盤となっている分野を確保しなければならない。それでない分野においては、抑制と禁欲が必要である」(『マネジメント——課題、責任、実践』)
中堅企業もまた、あるいは、中堅企業であるからこそ、やはり「強み」から出てはいけないと、ドラッカーは強く戒める。