TOP スペシャルコラムドラッカー再論 トップマネジメントの構造。

2016/08/08

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スペシャルコラムドラッカー再論

第38回

トップマネジメントの構造。

  • エグゼクティブ
  • マネジメント
前回見た通り、ドラッカーは、トップマネジメントは幾つかの理由から、チームである必要があると説く。

「トップマネジメントの役割が、なすべきこととしては常に存在していながら、仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、それが多様な能力と資質を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。さもなければ、重要な仕事が放置されたままとなる。
したがって、特に小企業においては、誰が何に責任を持つか、目的と目標は何か、締め切りはいつかを詳細に決めたトップマネジメント用の工程表を作成する必要がある。トップマネジメントの仕事が組織内の他の活動と異質であるからこそ、それが何であり、トップマネジメント・チームの誰が担当すべきかを明らかにすることが必要となる。」(『マネジメント——課題、責任、実践』、1973年)

上記の他に、ドラッカーはトップマネジメントがチームである必要性の理由について、「トップの継承が常に問題となり、賭けとなる」ことを挙げている。

「(現任のトップ以外に)トップマネジメントの仕事をした経験があり、トップマネジメントの仕事に適性のあることを証明した者が一人もいない。トップマネジメントの仕事がチームの仕事であることを認識することは、特に中小の企業において重要である。企業が成長できないのも、トップのワンマン体制が原因でえることが多いからである」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

ドラッカーは、「事業単位」で経営を考え、マネジメント・チームを配することを強調する。

「企業全体が事業である。自立した部門のそれぞれもまた事業である。したがって、それらの部門ごとにトップマネジメントが必要であり、トップマネジメントとしてなすべきことがあり、活動がある」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

「社長・副社長・専務・常務」だけがトップマネジメント・チームではなく、各事業毎に事業を統括する者達もまた、それぞれの単位のトップマネジメント・チームなのだと、ドラッカーは言う。ここは一般に、多くの読者や識者にも誤解されているところかもしれない。
リクルートにおいて、ドラッカリアンであった江副さんが、「社員皆経営者主義」を標榜し、課単位以上にPC制度(プロフィットセンター制度)を導入したのは、トップマネジメント・チームを、極限まで小さな単位にまで実現したかったからなのだ。
これもまたドラッカリアンのファーストリテイリング・柳井さんもまた、「(社員)全員が経営者になれ商売人になれ」とことあるごとに語るのは、このことだと思う。

さて、トップマネジメントの構造とは、いかなるものなのか。
ドラッカーが挙げている事項を、拾ってご紹介してみたい。

・トップマネジメントの責任を割り当てられた者は、肩書に関わりなくトップマネジメントの一員となる。責任はチームのメンバーのそれぞれの専門と資質に応じて割り当てる。
・シンプルな小企業を除き、トップマネジメントとしての責任を負う者は、トップマネジメント以外の仕事をしてはならない。
・複雑な大企業では複数のトップマネジメント・チームをもつことになる。
・トップマネジメント・チームのメンバーは、それぞれの担当分野において最終的な決定権を持つ。各メンバーの決定に対し、他のメンバーが異議を唱えることはできない。担当するものが最終決定者である。自らの担当以外の分野について意思決定を行うことはできない。
・トップマネジメント・チームのメンバーは、仲良くする必要はない。尊敬しあう必要もない。ただし攻撃し合ってはならない。会議室の外で互いのことをとやかくいったり、批判したり、けなしたりしてはならない。褒め合うことさえしないほうがよい。このことを徹底させるのが、チームの長、すなわちキャプテンの仕事である。誰であろうと、他のメンバーを批判したり、非難したり、軽んじるようなことをいわせたりしてはならない。
・トップマネジメントは委員会ではない。チームである。チームにはキャプテンがいる。キャプテンはボスではなくリーダーである。
・トップマネジメントが、チームとして判断しなければならない類の事項がある。例えば「われわれの事業は何か。何であるべきか」の定義や、主要な人事についてなどがそれに当たる。
・トップマネジメント・チーム内のコミュニケーションに精力的に取り組む必要がある。各メンバーは忙しく、それぞれ担当する分野で最大限の自立性をもって行動しなければならない。そのような自立性は、自らの考えと行動をトップマネジメント・チーム内に周知させているときにのみ許されるのだ。
・トップマネジメントに必要な情報を提供する機関として、「セクレタリアート(企画部)」の設置が有効である。トップマネジメントの頭脳に栄養を与える機関として、有益な情報を収集し提供する活動が必要だ。

「いかなる組織といえども、業績はトップマネジメント如何にかかっている。結局のところ、ボトルネックはボトルのトップにある。組織におけるあらゆる仕事のうち最も組織化することの難しいのが、トップマネジメントの仕事である。しかし、それは最も組織することの必要な仕事である」(『マネジメント-—–課題、責任、実践』)

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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