TOP スペシャルコラムドラッカー再論 「仕事の報酬は、仕事」。(前編)

2016/09/05

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スペシャルコラムドラッカー再論

第41回

「仕事の報酬は、仕事」。(前編)

  • エグゼクティブ
  • マネジメント
ドラッカーは仕事の動機付けについても幾つかの書籍で考えを著している。

そもそも働く人から最高の仕事を引き出すには、どのような動機付けが必要なのか。
通常、これに対する回答は「働く人の満足」であると言われるが、それをドラッカーは真っ向から否定する。

「この答えはほとんど意味をなさない。もし万が一、働く人の満足が何らかの意味をもつとしても、それは企業のニーズを満足させるに十分な動機づけとはならない」(『マネジメント——課題、責任、実践』、1973年)

どういうことだろう?

「満足」には、仕事で何かを達成しているから満足を感じる人もいれば、無難にやり過ごすことができるから満足という人もいる。
逆に、更に大きなチャレンジをしたいのにできないという「不満」を感じる人もいれば、もっと楽な仕事に移りたいと「不満」を持っている人もいる。

「われわれは、いかなる程度の満足を満足として是とすべきかを知るための基準を持たない。「この会社で満足しているか」との問いに対し、70%が「はい」と答えたとする。この場合、満足度は高いのか低いのか、それともどちらでもないのか。質問そのものが何を聞こうとしているのか」(『マネジメント–—-課題、責任、実践』)

ううむ、確かに。
「満足」から企業活動へのどのような効果を測定しようとしているかを明らかにすることは難しく、意味がないのだから、結論、ドラッカーとしては「満足」は動機付けとして間違っているのだと説く。
「満足」とは人の受け身の気持ちである、と。

「要するに、企業は働く人に対し、進んで何かを行うことを要求しなければならない。企業が要求sなければならないことは仕事であり、受け身の気持ちなどではない」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

そしてドラッカーは、「意味あるものは、満足ではなく責任である」と言う。

「そもそも働く人が責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人に対しては責任を要求しなければならない。企業は仕事が立派に行われることを必要とする。もはや恐怖を利用することができなくなった今日、企業は働く人に対し、責任を持つよう励まし、誘い、必要ならば強く求めることによって、仕事が立派に行われるようにする必要がある」(『マネジメント-—–課題、責任、実践』)

まさにドラッカーの真骨頂的な言い方だ。ストイックでもあるが、エンカレッジされるフレーズでもある。

仕事は金銭でもないともドラッカーは説く。

僕の古巣のリクルートでは、「仕事の報酬は、仕事」と新人時代から言われ、まさにそうだなという価値観を植え付けられた。
創業者の江副さんは、この連載でも過去紹介したが、生粋のドラッカリアンのひとりだ。
責任ある仕事を成し遂げると、その報酬として、更にレベルの高い、責任の重い仕事を任せてもらえる。そのサイクルを回し続けることで、リクルートの社員は若くして高スピードで成長し、それが事業の急成長をもたらし続けている。

ドラッカーは、仕事で責任を持たせる方法には4つあるという。

「人の正しい配置」「仕事の高い基準」「自己管理に必要な情報」「マネジメント的視点をもたせる機会」、だ。

これらについて、次回、ご紹介してみたい。

(続く)

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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