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2016/03/07

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スペシャルコラムドラッカー再論

第16回

製品・サービスがリーダーシップを失う、意外な?理由。

  • マーケティング
  • マネジメント
当然のことながら、我々が事業を成功に導き、それを継続させるためには、製品・サービスのリーダーシップを獲得しなければならない。

「ある製品がリーダーシップをもつということは、市場や顧客のニーズに最も適合しているということである。純然たるニーズに適合しているということである。顧客が喜んで代価を払ってくれるということである。生産者がいかに品質がよいと考えようとも、顧客がそう考えてくれなければ、リーダーシップを握っているとはいえない。顧客がそう考えるということは、競合品よりも優れた製品であるという評価を、進んで代価を払うという具体的な形で表明してくれるということである」(『創造する経営者』1964年)

ドラッカーがここで強調するのは、一般的に、製品・サービスのリーダーシップ獲得のために、企業が目指すのが市場シェア拡大だが、それが間違いだということだ。

「シェアが最大でありながら小さな競争相手よりも利益率がはるかに劣るという例はたくさんある」(『創造する経営者』)

そう、おうおうにして、市場シェア拡大の追求は、コストUPをもたらしがちだ。それがゆえに、売上拡大に伴い収益は低減していくということは、どの業界においても多く見られる事実である。

このことも問題だが、それ以上に致命的なことは、製品のカバレッジを拡げる・増やすことに追われ、個々の製品の強みを失ってしまうことだろう。

「市場シェアの大きな企業は、あらゆる領域において事業を行おうとする。しかしあらゆる領域において卓越した活動を行うことのできる企業など存在しない。むしろ小さな特化した企業だけが、時として、自らのあらゆる製品とサービス、あらゆる市場と最終用途、あらゆる顧客と流通チャネルに関して、リーダーシップを握ることができる」(『創造する経営者』)

これが、まさに、フォーカス、ドラッカーの言葉で言えば「集中」の重要性の意味だ。

適切に、自社の対象とする顧客を絞り、そこに焦点を当て、顧客が求める最良の商品・サービスを提供することに務める。3番手、4番手のプレイヤー(ドラッカーの言う、「限界的な存在」)になってはいけない、それは収益の低落とその後の自社商品・サービス(あるいは自社自身)の消滅を意味するからだ。

ちなみにドラッカーは、市場拡大とプレイヤーの多数参入の後に、これらのことから淘汰が行われ、主要なプレイヤー数社に集約されるという市場構造を語っている。

日本は他の国に比較して、どの業界もプレイヤーの数が多すぎると言われてきたが、グローバル化の進展とともに、コスト面での圧力も強くなり、いずれの業界でも乱立プレイヤーの淘汰と統廃合・再編が行われているのは、皆さん、ご存じの通り。

市場におけるシェア獲得は、一定率は重要なことに違いはないと思う。しかし、むやみやたらにシェア獲得に走り、真の顧客のニーズを満たすことで劣化してしまっていたら、その先にあるのは崩壊だ。

成長は大事だが、「膨張」はなんとしても避けなければならない。その観点で、周囲の業界プレイヤー各社を見渡してみると、色々と予見でみることも多くあると思う。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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