2016/02/29
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スペシャルコラムドラッカー再論
第15回
コスト会計の間違い。
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
VOL.13で取り上げた通り、
「(1)利益の流れとコストの流れは同じではない。
(2)事業上の事象は、成果の90%が10%の原因から生まれるという社会的事象に特有の分布の仕方をする。
(3)利益は売上に比例し、そのほとんどは、わずかな種類の製品、市場、顧客によってもたらされる。
(4)同じく、コストは作業量に比例し、そのほとんどはわずかの利益しか生まないおそらく90%という膨大な作業量から生じる。」(『創造する経営者』1964年)
という現実を、とかく我々は忘れがちである。
一般的に、ABC会計などの製品別会計管理・収益管理では、直接原価以外の諸経費・固定費(と思われているもの)を、製品別の売上に比例して配布し収益計算をする。
しかし、それは間違いだ。
「今日、総コストのきわめて多くの部分が直接費ではない。すなわち、製品を生産するときにのみ発生し生産高に応じて増えるものではない。直接費は外部から購入した原材料と消耗品だけである」(『創造する経営者』)
「・五万ドルの取引は、500ドルの取引と、コストはあまり変わらない。100倍はかからない。
・売れない製品の設計も売れる製品の設計もコストは同じである。
・小口注文の処理も大口注文の処理もコストは同じである。受注、日程管理、請求、集金のいずれも作業は同じである。
・さらに、小口注文の包装、保管、出荷のコストさえ大口注文とほとんど同じである。小口注文で時間が短くてすむのは生産だけである。しかし、生産のためだけに発生するコストは、近代工業においてはきわめて小さい。そして生産以外では時間や手間は小口注文も大口注文も同じである」(『創造する経営者』)
そうそう、、確かに売上と手間は、比例していない。大型受注も小口受注も、それを受注し提供する手間はさほど変わらないことを、我々は実は既に日々体感している。
ではコストは何に比例しているのか?
それは、「作業量」だ。
ドラッカーは、製造メーカーが商品を手配するところでの送り状、デパートの場合の来客対応人数、超高額商材を扱う企業での見積書の数、オーダーメード率の高い製造会社の工員の作業時間、消費財メーカーの問屋への訪問回数、小売業の棚卸し作業時間、などを例示し、クリティカルな「作業量」が、それぞれの企業で異なることを分かりやすく説明している。
「これまでマネジメントは事業を作業のシステムとしては考えてこなかった。しかし、ひとたびこの考え方をとるならば、特に、理論としてではなく具体例によって理解するならば、その自らの事業への適用は容易である。そしていかに行動すべきかも直ちにわかるはずである。
しかも、コストの客観基準としていかなる作業量を選択すべきかについて意見の違いが出てくるならば、それもまた問題の所在を明らかにしてくれることになる」(『創造する経営者』)
売上と共通コストを比例させて配布してなならない。それでは真の事業別・製品別・サービス別の収益性が闇に隠れてしまい、間違った収益判断を及ぼしてしまう。
“実際、それに、どれくらいの作業時間がかかっているのか”、そしてその作業コストはどれくらいなのか。
改めて、自社の事業や商品・サービス別の「真のコスト」を明らかにしてみると、我々の経営判断、優先順位付けや選択と捨象判断は、がらっと変わるかもしれない。