2016/02/15

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スペシャルコラムドラッカー再論

第13回

事業把握の勘違い。

  • マネジメント
我々は、事業戦略や商品・サービス戦略、あるいはその収益対策について、日々、試行錯誤しながら経営している。

しかし、涙ぐましい努力をしながらも、そもそも、「考えるべき土台」「対策すべき対象」が間違っていたら、どんなに頑張っても、その戦略や打ち手が上手くいくはずがない。

「事業がその製品に対して支払いを受けるということは、あまりに明らかであって忘れられることはない。しかし、製品には市場がなければならないということは、明らかでありながらしばしば忘れられる。製品を市場に届けるには、流通チャネルがなければならないということも忘れられる」(『創造する経営者』1964年)

ドラッカーは、業績をもたらす領域には製品、市場、流通チャネルの三つがあり、「製品、市場、流通チャネルのそれぞれが、事業活動の領域としてそれぞれ業績をもたらす。したがって、それぞれが収益上の貢献をもたらすとともにコストを発生させる。それぞれがそれぞれの資源を割り当てられ、それぞれの将来性をもち、市場におけるリーダーシップ上の地位を占める」(『創造する経営者』)と語る。

「市場と流通チャネルは、業績をもたらす領域として製品よりも重要なことがある。製品は経理上も事業の一部である。事業の領域内にある。しかし(中略)市場と流通チャネルは事業の外部にあってコントロールできない。製品の変更は命令できても、市場や流通チャネルの変更は命令できない」(『創造する経営者』)

主にメーカー視点で語られているが、よくあるケースとして、製品は非常に良いものであるのに、選択した流通チャネルを間違えたため売れない、ということは、昔も今もよくあることだ。(専門高級品を大衆消費チャネルに流してしまうとか、簡便性を向上させた商品をそれまでの専門チャネルで流し続けてしまう、とか。)

正しい商品を、正しい流通チャネルを通じて、正しい市場に届ける。当たり前のことのようだが、刻々と変化する市場環境・消費者感情の中で、正しい選択をし続けることは、案外難しい。

そして、もうひとつ、先にもご紹介した「コスト」問題。

ドラッカーはコスト会計を否定している。それはなぜか?

「(1)利益の流れとコストの流れは同じではない。

(2)事業上の事象は、成果の90%が10%の原因から生まれるという社会的事象に特有の分布の仕方をする。

(3)利益は売上に比例し、そのほとんどは、わずかな種類の製品、市場、顧客によってもたらされる。

(4)同じく、コストは作業量に比例し、そのほとんどはわずかの利益しか生まないおそらく90%という膨大な作業量から生じる。」(『創造する経営者』)

コストを商品別・事業別の売上に比例して配布し、商品別・事業別PL管理を行ったりするが、これは必ずしも正しく実態を反映しない。確かに。。

繰り返しとなるが、売上とコストは比例しない。売上は一部の(10%の)稼ぎ頭から成り立っているが、それとはまったく関係のない全社の活動(作業量)から全てのコストは発生しており、その90%はわずかな利益しか生まない作業である。

ううむ…。では、この売上・利益とは別問題のコストについて、どのような対処が我々は可能なのか。次回、この辺を掘り下げてみたい。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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