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2016/02/08

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スペシャルコラムドラッカー再論

第12回

正しい意思決定のために、明らかにしなければならない3つのこと。

  • エグゼクティブ
  • マネジメント
経営者は誰しも、常に正しく、成果を挙げる意思決定を行いたいと思い、願い、悩んでいるものだ。

どうしたら、可能な限り正しい意思決定を下すことができるのだろうか?

「現在の事業に成果をあげさせるには、そのための行動が必要である。他方、未来において新しい事業をつくりあげるためにも、そのための行動が必要である。しかし、現在の事業に成果をあげさせるための行動は、現在の資源を投入し事業の未来に影響を与える。また逆に、未来のための行動は現在の方針、期待、製品、知識に影響を与える。したがって、いかなる次元における行動もほかの次元における行動と一貫していなければならない」(『創造する経営者』1964年)

今日、目の前のことに奔走しているからといって、明日のことへの着手を放置してはいけないし、明日の目論見のために、今日のことをないがしろにしてはいけない。

これらは、相互に影響を与えるし、連続した一連のプロセスを経る。だから、その一貫性が重要となる。今日は今日、明日は明日、ということはないのだ。

その上で、ドラッカーは正しい意思決定のために、「あらゆる事業について、中核となるべき次のような意思決定がある」(『創造する経営者』)という。それは、「事業の定義」「卓越性の定義」「優先順位の定義」の3つだ。

「あらゆる企業が自らの事業についての定義、すなわち事業とその能力についての定義をもたなければならない」「意思決定を行う人たちが、いかに事業を見、いかなる行動をとり、あるいはいかなる行動を不相応と見るかを規定する定義というものがなければならない。事業の定義が市場に供給すべき満足やリーダーシップを保持すべき領域を規定する」(『創造する経営者』)

事業の定義は、成長していけるだけの大きさを持たねばならず、集中をしいるだけの小ささでなければならない。

「「我が社の事業はテレビ受像機である」では小さすぎる。「我が社の事業は娯楽である」では一般的にすぎる」(『創造する経営者』)

事業の定義が有効であってはじめて、関わる人たちが、「これは関わりが深いから調べてみよう」「これは関わりがないから、無視しよう」と判断できる。

「わが社の事業は何か。わが社の事業は何でなければならないか。わが社の事業は何にならなければならないか。事業の定義とは、目的を確立し目標と方向を設定すべきものである。それはいかなる成果に意味があり、いかなる評価基準が真に適切かを定めるものである」(『創造する経営者』)

「事業の定義」と密接に関連するものとして、「卓越性の定義」がある。

卓越性とは、「事業にリーダーシップを与える何らかのことを行いうる人間能力のことである。事業の卓越性を明らかにするということは、その事業にとって真に重要な活動が何であり、何でなければならないかを決定することである」「卓越性の定義が有効であるためには、実行可能であって、直ちに行動できるものでなければならない。それは、人事の決定すなわち「誰を何に昇進させるか。どのような人たちを採用するか。どのような人たちをどのような条件によって惹きつけるか」の決定の基礎となるものでなければならない」(『創造する経営者』)

卓越性とは、つまりところ、自社の従業員の質と価値観、行動によって体現されるのだ。変わりにくいものであり(だからこそ有意な差別化要因となる)、しかし、常に見直し、磨き、向上させていかねばならないものなのだ。

そして3つ目、「優先順位の定義」について。

「事業を、いかに組織化し単純化したとしても、なすべきこなすべきことは常に、利用しうる資源に比してはるかに多く残る。機会はそれらを実現するための手段よりも多い。したがって、優先順位を決定しなければ何事も行えない」(『創造する経営者』)

この優先順位の決定には、当然のことながら、事業の定義・卓越性の定義が反映される。そして、「優先順位の決定が、基本的な行動と戦略を規定する」(『創造する経営者』)のだ。

合わせて行わなければならないのが、劣後順位の決定。つまり、「なすべきでないこと」「やらないこと」の決定だ。

「数少ない大きな機会に対し、同じく数少ない一級の人材を割り当てないかぎり優先順位を決定したことにはならない。潜在的な可能性を顕在化させたり、未来において何かを起こすための大きな機会に対しては、目前の確実ではあっても小さな機会は犠牲にして、ふさわしい人材を割り当てなければならない。しかし、優先順位の決定に関して本当に重要なことは、決定したことは断固行わなければならないということである」(『創造する経営者』)

優先順位の決定と実行を苦しいものとして回避し、成り行きに任せるくらいならば、間違っていてもよいから、自ら意思決定し実行せよ!

ドラッカーは、こう、強く我々経営者の背中を押す。

事業とは、経営とは、日々、重要な意思決定の繰り返しと、その選択の実行を迫られるゲームだ。

「意思決定は、それが正しいものとなる可能性を高めるためだけにでも、体系的に行わなければならない。それは、トップマネジメントが権限を委譲したり、他人任せにしたりすることのできない責任」(『創造する経営者』)なのである。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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