2020/10/13
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社長を目指す方程式
第50回
オンライン会議の強化書 上司がメリットを活かす3つの術
- キャリア
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- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
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読者上司の皆さんの多くが、この半年強のウィズコロナ下でのリモートワーク対応で、オンライン会議にだいぶ慣れ親しんだことと思います。しかし、毎日ZOOMなどでオンライン商談やオンライン会議をやっているものの、「本当にこのやり方でいいのかな?」「何かいまひとつ巧く情報伝達し切れていない気がする」「コミュニケーションが図れているのか不安がある」という方も少なくないようです。今回は、改めてオンライン会議のコミュニケーションについて確認してみましょう。
◆「テレビの中の司会者」にならないために
わかりやすい文章表現の本で定評のある、国立国語研究所教授・研究情報発信センター長で一橋大学大学院連携教授の石黒圭さんの近著、『リモートワークの仕事術』(小学館新書)には、オンライン会議のコミュニケーション術が紹介されており、非常に具体的かつ分かりやすくまとめられています。
石黒さんは、オンライン会議には「会議メンバーの工夫」「会議のルールの工夫」「会議の環境の工夫」の3つの工夫が大事だと言います。
まず1つ目「会議メンバーの工夫」とは、「発言者と参加者の距離を縮める工夫」「参加者同士の連帯感を高める工夫」「自分自身を孤立させない工夫」からなると石黒さんは言います。
(あなた)「〜〜〜と、今回は、この方針で行きたいと思います。いかがでしょう?」
(参加者)「(シーン)」
上司のみなさんが部や課の定例会議、プロジェクトミーティングなどで起案者になった際に、オンライン会議となってから、おそらく直面したことのある瞬間ではないでしょうか?(笑)
対面のときには発言は得られなくとも、その場のメンバーたちの表情をざっと見渡せることで、今回の提案が参加者の心を掴めているのか・合意はありそうか・あるいは懸念を感じているのかなどを瞬時に捉えることができました。
しかしオンライン会議は、まさに進行役や発言者である上司の皆さんが<テレビの中の人>になってしまい、参加者は自分のPCから画面の向こうの人を眺めている、というような構図になってしまうのですよね。
石黒さんは、人間はアイコンタクトで意思疎通をする生き物であることに本書で触れていて、なるほどと思いました。確かに対面であれば、視線で相手を捕まえることができますし、実際、意識無意識によくやっていると思います。
オンラインでこれを対面と全く同様に行うことは至難の技ですが、なるべく同じ状況に持ち込むために、石黒さんは「カメラにしっかり、はっきり視線を向ける」ことと「意識的に手振りを使う」ことを推奨しています。これで相手の視線、ひいては気持ちを捕まえること。また、最近はオンラインセミナーなどでもよく使われるようになってきましたが、「投票機能」や「チャット機能」を使って参加者に積極的に反応、発言してもらう。こうしたことが「発言者と参加者の距離を縮める」ことの一助となります。
◆会議開始前の待ち時間こそ、オンライン雑談のチャンス
オンライン会議では概ね開始時間定時に参加者がログインしてくると思いますが、たまたま少し早めに入ったときに同じく早めに入ってきた人たちと、ついで話やそういえばで別件の話をしたりした経験、ありませんか?
石黒さんは、これが「参加者同士の連帯感を高める」ことになるため、意図的に10分前、あるいは30分前くらいから時間がある人はバーチャルルームに入れるようにセットアップしておくなども非常に有効だとアドバイスしています。これは確かにと思いますね。私もこれまで偶発的に、オフィシャルな開始前に初めてお会いするクライアントやインタビュー者などと雑談したり、社内メンバーと個別案件の話をしたりしていました。これを意図的に仕掛けることは、かなり有益だと感じます。
こうしたオンライン会議、そもそも対面の場でも人前で話す、複数名に対して話すことが苦手な人にとっては非常に孤立感を感じるものであり、どうしても発言の際に<独り言>のようになってしまうようです。
そこで石黒さんは「自分自身を孤立させない工夫」として、オンライン会議であっても、自分の側に誰かリアルに一緒にいてもらえる人を置き、その人に対して話す形を取ること。また、自分が話しているオンライン会議の動画を録画しておき、あとでどのような話し方をしているか見直してみて改善をはかることも推奨しています。ぜひトライください。
◆なるべく多くの参加者に発言させる工夫
次に2つ目「会議のルールの工夫」ですが、これは「ホスト権限を相対化する工夫」と「発言者を共有化する工夫」からなると石黒さんはまとめています。
オンライン会議では、ホスト(司会進行役)が頑張れば頑張るほど、ホストばかりが一方的に話し続けるという悪循環に陥りがちです。しかも冒頭の事例のように、参加者に投げかけて反応が返ってこなかったりしますとなおさらのこと(笑)。この状態になりますと、参加者にとって<画面の向こうで話している人(たち)>度が高まるばかり。生産的な会議からは遠ざかる一方です。
そこで石黒さんは「ホスト権限を相対化する」ことを勧めています。ここでいう<相対化>とは、発言比率を極力、参加者たち側に振ること。挙手や指名で、ホストではなく、参加者たちが入れ替わり立ち代わり話すようにする形を取るのが望ましいということです。
また「発言者を共有化する工夫」とは、会議にあらかじめコーナーを設けて、その各コーナーはコーナー担当者が話すように構成する。また、ディスカッションなどを行いたいときには、参加者を更に小分けして少人数同士で行う工夫なども取り入れたいですね。
会議の目的にもよりますが、極力「聞いているだけ」の参加者が出ないような会議設定自体の工夫もオンラインでは非常に重要です。
◆内職、聞き流し参加もときには悪くない
最後に3つ目「会議の環境の工夫」です。これは「議題に応じた声がけ・招集」「画面共有による共同作業」「例外、内職、気楽な参加のススメ」の3つを心がけよと石黒さんはアドバイスします。
オンライン会議になって、時間的・空間的な制約から解き放たれるメリットを感じている上司の皆さんも非常に多いと思います。これがゆえに、そのメリットを更に活かしていく方向感としては、「より機動的に」「より短時間で」会議や個別打ち合わせができるスタイルを確立させていくことでしょう。
従来、各拠点から出張で本社に集まってのマネジャー会議、支店長会議などを定期スケジュールで一堂に介して行なっていたのは、「幹部に移動も含めた一定の時間と費用(新幹線代、宿泊費など)をかけるので、万が一の抜け漏れのないように全員で集まろう」という<機会ロス最小化思考>でのことでした。しかし、オンラインで距離の制限なくいつでも集まれるならば、「本当にその議題に必要な人だけ集まる」「極力、必要な議題だけ短時間で行う」<機会創出最速化思考>の方に経営上、事業運営上のメリット、軍配が上がるのは間違いありません。
「必要な参加者だけ」「短時間」をキーワードに、逆に機動力を高めるためには「多頻度」のオンライン会議開催が良いかもしれませんね。
ここまで上司の皆さんが、オンライン会議で生産性を高めるための方法について見てきましたが、石黒さんは、画面共有で共同作業をすることで楽しんだり、オンライン会議中に出た内容で参加者が分からないことや気になることなどがあった際に、ネット検索で調べるなどの「内職」を積極的に認めること、ときには「画面オフ」などもOKとする、また、たまにはウェビナー形式での情報共有会議で参加者は気楽に聞きっぱなしでよい会も設けるなどの、砕けた場を設けていくことも大事ではないかとおっしゃっています。全く同意です。TPOに合わせて、柔軟なスタイルを取り入れて運用していける上司こそ、ウィズコロナにオンラインで活性化した組織を率いることのできるリーダーだということになるのは間違いないと思います。
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オンライン会議は部下の反応が掴みきれないなどもどかしい部分もありますが、一方では時間的な制約がなくなった、移動などのコストが大幅に減る、出逢える機会が大幅に拡大した、同時に会える人数が増大したなど、得られるメリットも非常に大きいことを私たちは知りました。
まだまだ続きそうなウィズコロナ下ではもちろんのこと、1年後か数年後か以降のポストコロナにもこのメリットをしっかり活かしていくことが、<ニューノーマル上司>として活躍するための基本武装となるのです。
※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
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