2016/02/22
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スペシャルコラムドラッカー再論
第14回
事業把握の勘違い。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
読者の皆さんには、『ビジョナリーカンパニー』『ビジョナリーカンパニー2』を読まれた方も多いと思う。読んだのみならず、座右の書とされている経営者もとても多い。僕もシリーズは全作読んだし(1〜4+特別編の5冊が刊行されている。1の共著者、ジェリー・ポラスによる『ビジョナリー・ピープル』という著書もある)、『ビジョナリーカンパニー2
飛躍の法則』は座右の書のひとつで、「第5水準のリーダーシップ」「適切な人をバスに乗せ、不適格な人をバスから降ろし、その後にどこに行くかを決める」「針鼠の概念:情熱をもって取り組めるもの×経済的原動力になるもの×自社が世界一になれる部分」「弾み車」などは講演やコンサルティングでも良く使っている。
その著者、ジム・コリンズがこんなエピソードを明かしている。
「私がドラッカーの存在を何度も感じさせられたのは、新著の取材のため、ジェリー・ポラスとともに一流企業の行動様式を洗いざらい調べていた1990年代はじめのことだった。ゼネラル・エレクトリック(GE)、ジョンソン&ジョンソン、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、ヒューレット・パッカード、メルク、モトローラの発展期には、必ずドラッカーの影があった。ヒューレット・パッカードのデイビッド・パッカードが説いたものには、明らかにドラッカーの姿が見られた。あたかもドラッカーが書いたものを手にしつつ説いているかのようだった」(『経営の真髄
知識社会のマネジメント』ジョセフ・A・マチャレロ編)
ジム・コリンズは、ドラッカーの影響がこれほどまでに大きい理由として、そのメッセージそのものに加えて、
1.外の世界を見る
2.成果を中心に置く
3.質問する
4.個を大切にする
というアプローチの仕方にあるのではないかと語る。理論にのみ拘泥するのではなく、実際の成果にこだわり続けたところが、一般の経営学者からは嫌われ、無視され(ているらしいと良く聞く。本当だろうか?)、経営者から愛され続けている理由だろう。
「ポラスとの共著を書き上げたとき、書名候補は100を超えた。困った私たちは、いっそ『すべてドラッカーの言うとおり』にしようかと言った(最終的には
Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies
邦題『ビジョナリーカンパニー』に決まった)」(『経営の真髄 知識社会のマネジメント』)
なんと!あの世界的ベストセラーは、もしかしたら『すべてドラッカーの言うとおり』という書名だったかもしれなかったのだ。
『ビジョナリーカンパニー』そのものが、ドラッカーに大きく影響を受けている事実を、我々は改めて認識したい。
ジム・コリンズは、熱く語る。
「ドラッカーとは、この混沌たる世界に光をもたらす存在である。何十年も前に旧式のタイプライターで打ち出した彼の言葉は、いつになっても力を失わない。この世にあって何がしかの責任を担う者であるならば、ドラッカーとは、いま読むべきものである。明日読むべきものである。10年後、50年後、100年後にも読むべきものである」
「「世の中に貢献するにはどうしたらよいか」と聞かれたら、答えはすべてドラッカーの言葉にあると申し上げたい」(『経営の真髄 知識社会のマネジメント』)
戦略、マーケティング、イノベーション、リーダーシップ、組織風土、意思決定、いずれにおいても、「最も成果のあがる方法は、何か」を問い続け、その答えを明らかにしたドラッカー。
経営者である我々が、この真髄を学び尽くさないことは、知識資産の大いなる無駄使いだと言っても、決して大言壮語ではないだろう。