2018/05/07
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スペシャルコラムドラッカー再論
第120回
人を間違った方向へと持っていく、4大要因。(後編)
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
前回は(1)仕事の専門化と(2)上司について紹介した。今回は(3)階層、(4)報酬について。
「(3)間違った方向づけは、階層によって仕事と関心に違いがあることからも起こる。この問題も、善意や態度では解決できない。組織の構造に根差す問題だからである。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
階層ごとにものの見方が異なることは、ある意味当然だ。
若手と中堅、中堅とミドルやシニアマネジメント、ミドル・シニアマネジメントと経営層、それぞれの視界や視座が異なる(上位に行くほど広く、深い)からこそ、階層毎の役割が成り立つし、そのものの見方のレベルで職階は決定されている(はずだ)。
とはいえ、階層ごとにものの見方があまりに違うため、同じことを話していても気づかないことや、逆にまったく関係のないことを話していながら、それを同じことを話していると錯覚することがあまりに多い。読者の皆さんも少なからず経験されてきたことだろう。
「(このことは)コミュニケーションの改善でも解決できない。コミュニケーションが成立するには、共通の言語と共通の理解が前提である。欠如しているのは、まさにそれらの前提である。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
(4)そして間違った方向づけをもたらすさらに大きな要因が、報酬システムだとドラッカーは警告する。
「誰でも報酬は必要である。だが、いかなる報酬システムといえども、人を間違って方向づけすることは避けがたい。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
組織人にとって報酬や報酬システムほど強力な信号はない。報酬は、もちろん組織人にとって生活の糧であるが、金銭的な意味合いだけではないところが難しい。
あらゆる報酬システムが人を位置づける。報酬はその絶対額よりも、他との比較、特に自分が同格とみなす者との比較が重要な意味を持つとドラッカーは述べる。確かにその通りだろう。
「(報酬は)トップマネジメントの価値観とそこにおける自らの価値を教える。自らがいかなる位置づけにあるか、いかに認められているかを語る。(中略)地位を表すものとしての報酬の多寡と、その心理的なインパクトは絶大である。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
年功的な報酬制度は社員を外部の顧客に目を向けることよりも社内の上司に気に入られることのほうに目を向けさせることとなり、あるいはチャレンジよりも減点を恐れる行動のほうにながらく社員の意識を引っ張り続けることとなる。
一方でROI(投資収益率)による報酬システムを組めば、足元の収益に目が行くことはよいとしても、将来のための投資に二の足を踏み続けることとなる。
結局、完全・公正なる報酬システムというものは存在しようはなく、我々マネジメントにできることは、報酬システムが間違った成果を重視して間違った行動をもたらし、全員が共通の利益から離れることのないよう監視することぐらいなのだとドラッカーは語る。
「方向づけの間違いを防ぐには、地道な努力しかない。上司は部下に何を期待すべきかを知らなければならない。部下は自分がいかなる成果に責任を負うべきかを知らなければならない。努力しない限り、上司と部下の考えは、同じになるどころか、両立するところまでもいかない。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
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