2016/06/13
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スペシャルコラムドラッカー再論
第30回
(経営者としての)自分がなすべきことと、組織にとってよいことを、徹底的に考える。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
「何をしたいかではないことに留意してほしい。なされるべきことを考えることが成功の秘訣である。これを考えないならば、いかに有能であろうとも成果をあげることはできない」(『経営者の条件』1966年)
確かに経営者としては、自分がやりたいこと(興味があること・得意なこと)にどうしても目が行きがちだ。しかし、必ずしもやりたいこと・得意なことが、いま自社が成果を上げるために再重要なことであるとは限らない。
1945年にトルーマンが大統領に就任した際、彼は第二次世界大戦でとん挫していたフランクリン・ルーズベルト前大統領のニューディール政策を仕上げることに興味があった。しかし、大戦後のアメリカおよび世界経済の状況を鑑みると最優先事項は外交だった。そこでトルーマンは担当閣僚から外交・軍事に関してブリーフィングを受けることを毎朝の日課としたという。結果として彼はマーシャル・プラン(ヨーロッパとアジアでの共産主義封じ込め策)を策定・実行し、アメリカ外交史上最高の成果を上げ、戦後の世界平和とアメリカの繁栄に大きく寄与する実績を残した。
ジャック・ウェルチはGEのCEOに就任したとき、自分が興味の高かった事業のグローバル展開よりも、全社の各事業において世界で一位あるいは二位になる価値のない事業から手を引くことのほうがGEの成長のために必要であることを知り、それを実行した。
トップマネジメントにとって大事なことは、最優先課題にフォーカスし、他のことはすべて後回しにすることだと、ドラッカーは説く。ううむ、、分かってはいるが、なかなか難しいことだ。
さらに重要な指摘は、「その最優先課題を仕上げても、優先順位が第二位だった課題に自動的に移行してはならない」ということ。最優先課題が仕上がったら、そこでまた、いちから「では、これから、何が最も重要な課題か」を考える必要があるのだ。
「通常は(元々の第二優先順位であった課題ではなく)まったく新しい課題が浮上してくる」(『経営者の条件』)
そして第二の習慣、「第一のものに劣らず大切な習慣」が、組織にとってよいことは何かを考えることだ。
「株主、従業員、役員のためによいことは何かを考えるのではない。もちろん株主、従業員、役員は、必ず支持を得、あるいは少なくとも同意を得るべき重要なステークホルダー(関係当事者)である。(中略)しかし、そもそも組織としての会社にとってよいことでないかぎり、他のいかなるステークホルダーにとってもよいこととはなりえない」(『経営者の条件』)
ここでドラッカーは同族企業を例示し、「同族企業が繁栄するには、同族のうち明らかに同族外の者よりも仕事ぶりの勝る者のみを昇進させなければならい」と語っている。
社内政治を徹底的に忌避するドラッカーが、ここで強調しているのは、事業・経営が最もうまくいくためのトップマネジメント体制・組織体制に徹せよということだと思う。
ねじ曲がった人事は、それだけで企業が成果を上げることを阻むことは、ここ最近の東芝、シャープ、大塚家具などの例を見ても明らかだろう。
「トップマネジメントが成果をあげれば組織が成果をあげ、トップマネジメントが成果をあげられなければ、組織も成果をあげられないからである」(『経営者の条件』)
耳に痛い言葉だが、その通りなのだから、我々はまずその出発点の段階で、相当の覚悟でこの第一の習慣・第二の習慣について徹底的に考え尽くさねばならない。心して臨もう。