2016/06/27
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スペシャルコラムドラッカー再論
第32回
成果をあげる実行プロセス(後篇)。
- エグゼクティブ
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
VOL.31にて「アクションプランをつくる」「意思決定を行う」についてご紹介したが、今回は後編として「コミュニケーションを行う」「機会に焦点を合わせる」「会議の生産性をあげる」について紹介してみたい。
「コミュニケーションを行う」ことは大事だと、誰もが思っている。
それは概ね、こちらの考えや意図を理解してもらうために、あるいは相手の考えを理解するために、ということで捉えている人が多いだろう。
もちろん、ドラッカーも同様に、「アクションプランについては、上司、部下、同僚に示し、意見を聞いておかなければならない」と述べている。
しかし、ここでドラッカーが強調するのは、「(自身の)情報ニーズを理解してもらうこと」だ。
「自分がいかなる情報を必要としているかという情報ニーズについても理解してらわなければならない」(『経営者の条件』1966年)
そう、トップマネジメントが「本当に欲しい、必要としている情報」は、必ずしも各部署(営業企画、事業企画、経理財務、etc.)からあがってはこないのだ。
「情報とは、経理などの情報のスペシャリストが扱えばよいとの考えが残っている。その結果、かえって使いもしない膨大なデータを手にしつつ、必要な情報は手にしていないという状況になっている。この状況を打破するには、必要な情報を明らかにし、求め続けるしかない」(『経営者の条件』)
次に、「機会に焦点を合わせる」。
これはドラッカーが繰り返し各書で述べる、最も重要なメッセージだ。問題に対応するのではなく、機会に目を向け、取り組め、と。
「問題の処理では、いかにそれが重大なものであろうとも、成果がもたらされるわけではない。損害を防ぐだけである。成果は機会から生まれる」(『経営者の条件』)
僕自身にとっても、この「問題ではなく、機会に焦点を合わせよ」は、かつて、大きな仕事の取り組み方の視点転回となった記憶がある。
「なぜ(失敗したんだ、こんな問題が起きたんだ)」ということを言われ続けたことから、原因究明癖がついていたところに、「どうすれば(挽回できると思う?うまく行かせることができると思う?)」という課題解決型思考に転換することで、成果の出方も大きく変わったし、なによりもどのような局面にあっても<暗くならない、鬱々としない>という大きなメリットがあった。
メンタルタフネスの根源は、案外、こういうところ(思考パターン)から来ているのではないかと思う。
「問題に圧倒されて機会を見失うことがあってはならない。ほとんどの組織の月例報告が第一ページに問題を列挙している。しかし、第一ページには機会を列挙し、問題は第二ページとすべきである。よほどの大事件でも起こらないかぎり、問題を検討するのは、機会を分析しその利用の仕方を決めてからにすべきである」(『経営者の条件』)
「会議の生産性をあげる」。
マネジメントは昔も今も、大概、一日のうちの膨大な時間を会議に占領されている。
だからこそ、会議の生産性を上げることが非常に重要なこととなる。
ドラッカーはここについては、特段変わったことや独自のことを述べている訳ではない。「会議の生産性をあげるには、事前に目的を明らかにすることが必要である」と述べている(に過ぎない)。
ただ、これと同時に「フォローが重要である」と述べているところが、ドラッカーらしい、ただでは済まさないところだろうか。
「この点に関しては私の知っている最高の経営者アルフレッド・スローンが名人級だった。(中略)委員会では冒頭必ず会議の目的を明らかにした。あとは耳を傾けた。メモはとらず、わからないことを聞く以外は発言もしなかった。最後にまとめとあいさつを述べて席を立った。しかし部屋に戻って直ちにメモを書き、そのコピーを出席者全員に届けさせた。メモでは結論と宿題を明らかにした。担当者と期限を示した。それらのメモは一つひとつが名文だった。スローンはこうして傑出した経営者となった」(『経営者の条件』)
「結論と宿題を明らかにし、担当者と期限を示す」。
こここそが要諦だろう。実行に長けたマネジメント力を要する企業とそうでない企業との差は、まさにここにある。僕自身も、比較的徹底しているほうではあるとは思いつつも、まだまだ甘いな…と改めて思いなおすばかりだ。心して臨もう。