2016/05/16
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スペシャルコラムドラッカー再論
第26回
イノベーションのための人事。
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
自社内に、企業家は存在するのか。企業家とは既存の企業には生息していない特殊な人種なのか。あるいは、どこかに密かに隠れていて、マネジメントが自分を発見してくれるのを虎視眈々と待っているものなのだろうか。
「この問題を扱っている文献はたくさんある。企業家的な個性やイノベーションしか行わない人物についての物語は多い。しかし、経験の教えるところによれば、それらの議論にはほとんど意味がない。そもそも企業家的であることが苦手な人たちが、進んでそのような仕事を引き受けるはずがない。はなはだしいミスマッチは起こりようがない」(『イノベーションと企業家精神』1985年)
ドラッカーらしくない言説のような感じもするが、要するに、「出来る人、やりたい人が、やるものだ」と。
「イノベーションと企業家精神の原理と方法は誰でも学ぶことができる。ほかの仕事で成果をあげた者は企業家としての仕事も立派にこなす。企業家的な企業では、誰が仕事をうまく行えるかを心配する必要はない。あらゆる性格と経歴の人たちが同じようによい仕事をしている」(『イノベーションと企業家精神』)
これまでのコラムでもご紹介してきたように、ドラッカーは、企業家精神とは個性の問題ではなく、行動、原理、方法の問題だと力説する。
「(実際の事例が)特別な個性は必要ないことを教えている。常に必要とされるのは、学びつづけ、粘り強く働き、自らを律し、適応する意志である。正しい原理と方法を適用する意志である。このことこそが、企業家的なマネジメントを行う企業が人事について知っていることのすべてである」(『イノベーションと企業家精神』)
こうした資質を持つ人物を適切に選び、その上で企業家精神を発揮するに適した組織構造・報償・裁量を与える。
企業は、既存の事業で成り立ち、運営されている。それは今日明日を生き抜くために必須のものだ。しかし、明後日のためのイノベーションを起こすためには、既存の事業・組織とまぜこぜにしてしまってはうまくいかない。
組織やルールをしっかり切り離し、定義づけること。自社の得意分野でチャレンジすること。そしてなによりも大前提としては、自社全体に企業家精神を浸透させること、イノベーションを望み、手を伸ばし、イノベーションを必然の機会として見る風土が浸透定着していることが欠かせない。
「組織全体が新しいものに貪欲になっていなければならない」(『イノベーションと企業家精神』)
「幸運、チャンス、災難が、事業に影響を与える。だが、運では事業はつくれない。事業の機会を体系的に発見し、それを開拓する企業だけが繁栄し成長する」のだ。