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2016/05/02

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スペシャルコラムドラッカー再論

第24回

イノベーションを発揮させる組織構造。

  • マネジメント
イノベーションを行うのは人である。人はそそ期の中で働く。よって、イノベーションを発揮させるには、そこに働く一人ひとりが企業家になれる組織構造・人事体系が必要だ。

「新事業は、既存の事業から分離して組織しなければならない。企業家的な事業を既存の事業を担当する人たちに行わせるならば、失敗は目に見えている」(『イノベーションと企業家精神』1985年)

それは、既存事業は稼ぎ頭であり、それを担う人に膨大な時間とエネルギーを求めるものであるからだ。それに比べて新規事業は「さして期待のもてないつまらないもの」に見える。

「しかも悪戦苦闘するイノベーションを養ってくれるものは、既存の事業である。今日の危機に対しては今日対処しなければならない。したがって既存の事業に責任を持つ人たちは、イノベーションに関わる活動をすべて手遅れになるほど先延ばしにする」(『イノベーションと企業家精神』)

だからこそ、新事業の核となる人は、かなり高いポジションにあることが必要なのだ。

「専任である必要はない。特に中小の企業では専任が必要なほどの仕事量になることはない。だが、それは明確に定められた仕事であって、権限と権威をもつ者が全面的な責任をもつものでなければならない」(『イノベーションと企業家精神』)

力量のある幹部、あるいはトップ自らが、イノベーションの最終責任者を負う必要があることを、ドラッカーは繰り返し説く。
確かに新規事業に成功する企業は、トップ自ら、あるいは自社のスター事業トップが必ずその任を担っており、逆になかなか新規事業がうまくいなかい企業の共通点は、“戦力外”の社員、あるいはそこまで酷くなくても、事業の中核を担っている幹部・社員「以外」をそこに置いている。

報酬や評価も、既存事業と同じにしてしまっては、うまくいかない。「新市場に参入したばかりの新製品に、既存の事業に課しているものと同じ負担を負わせることは、六歳の子供に60ポンドの重さのリュックを負わせるようなものである。遠くまで行けるはずがない」(『イノベーションと企業家精神』)

当初の報酬は、新事業を担当する直前の水準に合わせておくことが妥当だと、ドラッカーは言う。そして、もし新事業が成功したらそれ相応の重責に引き上げよ、と語る。

「新事業を担当する人たちはいわば冒険をしているのであって、企業の側も相応のことをしなければ公平とはいえない。イノベーションを担当する人たちは、たとえ失敗しても元の仕事、元の報酬に戻れるようにしておくべきである。失敗をほめる必要はなくとも、挑戦に罰を与えてはならない」(『イノベーションと企業家精神』)

経営者/企業が、新事業にどのような投資スタンスを持つべきか、腹落ちさせてくれる一文だ。
あえて付け加えるならば、だからこそ、その任を任された担当者が、求めるチャレンジをしなかった際には、「挑戦しなかったこと」に罰を与えてる必要があるのではないだろうか。
その怠慢こそが、自社のイノベーションを大きく阻害する病巣となるのだから。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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