2016/05/11
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スペシャルコラムドラッカー再論
第25回
イノベーションを起こす方法、失敗させる方法。
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
「もちろんトップは社内の企業家精神を傷つけ殺すことができる。新しい考えにことごとくノーといい、それを何年か続ければよい。新しい考えを持つ人たちが報酬や昇進を得ることのないようにし、すぐ辞めてしまうようにすればよい」(『イノベーションと企業家精神』1985年)
皮肉とも思えるような言説で、ドラッカーは、「どうすれば、イノベーションが起こらなくなるか、失敗するか」について上記のように語っている。イノベーションの失敗をもたらすものは、それを損ねるトップの姿勢や資質だ、と。
では、イノベーションを起こす、成功させるには、どうなのだろうか?
「企業家精神についての文献の多くがいうようには、トップマネジメントの個性や姿勢だけで企業家的な事業を生み出すことはありえない。私が知っている企業の中にも、創業者自身が独自のマネジメントをしている企業がいくつかあった。しかしそれらの企業は、たとえ最初のうちは成功しても、企業家としてのマネジメントを行わなかったためにすぐに企業家的ではなくなっていた」(『イノベーションと企業家精神』)
当然のことながら、企業におけるイノベーションは個別個人的なものだけでは起こらないし、ましてや継続・永続させることは不可能だ。
概ね、創業者というのは、個人としての企業家資質を持って会社を立ち上げるので、おのずとその精神がトップダウンで発揮される。しかし、それが組織としてのものとなっていなければ、創業者の喪失とともに、イノベーティブな企業は、すみやかに、イノベーティブではない企業となることは、我々も古今東西の多くの企業の事例で見てきている通りだ。
「私の知る限り、創業者が企業家精神のためのマネジメントを組織の中に確立していなかった企業で、創業者がいなくなっても企業家的でありつづけたところは一つもない」(『イノベーションと企業家精神』)
では、どうすればよいのか?ドラッカーは、その方法は「企業家的な成果の測定」であると言う。自社の中でのイノベーションの収益パターンを、既存事業の収益パターンと切り離し認識し、評価測方法を異なるものとしているか。たいがいのイノベーションは、小さく始まり大きく実を結ぶが、そのタイムスパンを自社独自のものとしてどうとらえて計測しているか。
「イノベーションがもたらすべきものについては、過去の経験からのフィードバックによってのみ知ることができる」(『イノベーションと企業家精神』)