TOP スペシャルコラムドラッカー再論 生産性UPの秘策は?(続き)

2015/12/14

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スペシャルコラムドラッカー再論

第5回

生産性UPの秘策は?(続き)

  • マネジメント
前稿に続き、ドラッカーが語る生産性向上の施策について追ってみたい。

前回の通り、ドラッカーは、
「知識労働者とサービス労働者の生産性向上には、継続学習を組み込むことが必要である。知識は、その絶えざる変化のゆえに、知識労働者に対し継続学習を要求する。サービス労働者に対しても、継続的な自己改善努力としての継続学習を要求する」「生産性向上のための最善の方法は、他人に教えさせることである。知識社会において生産性の向上をはかるには、組織そのものが学ぶ組織、教える組織とならなければならない」(『ポスト資本主義社会』)

と言う。

それはなぜなのだろう。

「20世紀の企業における最も価値ある資産は生産設備だった。他方、21世紀の組織における最も価値ある資産は、知識労働者であり、彼らの生産性である」「20世紀の偉業は、製造業における肉体労働の生産性を50倍に上げたことである。続く21世紀に期待される偉業は、知識労働の生産性を、同じように大幅に上げることである」(『ポスト資本主義社会』)

そう、我々は既に「肉体労働中心の社会」から「知識労働中心の社会」に移行済みだ。簡単に言えば、多くの人たちがホワイトカラー職として働いており、一次産業・二次産業に従事している人たちであっても、その生産方法において知識集約的な仕事が求められるような社会になっていることは、この後に及び敢えて言うまでもない。

「教師の仕事は、生徒の数で評価されることはない。何人の生徒が学んだかが問題である。質である。病院の検査室にしても、信頼できる検査をどれだけ行ったかが問題であって、どれだけの数の検査をおこなったかではない。同じことは、事務の仕事についてもいえる」

肉体労働が所与の作業を、いかによりよく行うかを考え実行すればよかったのに対して、知識労働においては、「一体、何をおこなうことが正しいのか」という、質の定義から入らなければ、そもそも良い仕事はできないということなのだ。

「知識労働の生産性は、仕事の質を中心に据えなければならない。しかも、最低を基準としてはならない。最高ではないにしても、最適を基準としなければならない。量の問題を考えるのは、その後である。このことは、知識労働の生産性向上には、量ではなく質の面から取り組むべきことを意味するだけではない。まずもって、仕事の質を定義すべきことを意味する」(『ポスト資本主義社会』)

そこで、前項に紹介した「知識労働者の生産性を向上させる6つの条件」の第一、「仕事の目的を考える」となる訳だ。

「知識労働の生産性の向上のために最初に行うことは、行うべき仕事の内容を明らかにし、その仕事に集中し、その他のことはすべて、あるいは少なくとも可能なかぎりなくしてしまうことである」「仕事が何かか明らかになれば、続くその他の条件に取り組むことも容易となる。そのうえ、知識労働者自身が取り組めるようになる」(『ポスト資本主義社会』)

まず「仕事の目的を明らかにする」という質の定義から入る。質の定義ができるのは、ここの職務に最も密接に関わっている各々の現場スタッフである。だから、「教え、教えられる」環境を作ることが必要なのだ。それによって、より正しく、個々の「仕事の目的を明らかにする」ことができる。

生産性UPのために、最大の留意でなによりも最初にやらなければならないことが、「質の定義」。

「まったくするべきではないことを能率的にする。これほどむだなことはない」(『現代の経営』)

正しく頑張ることが、結果、「最小の努力で最大の成果を得る」(『現代の経営』)ことへと直結するのだ。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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