2017/11/20
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経営者のための、「本当の話し方、伝え方」の技術
第5回
同じ質のコミュニケーションの問題が自分に起こり続けているなら、それは自分が間違っているというサインである。(5/5)
- スペシャル対談
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「経営者を語る。」――今回は、西任暁子氏(U.B.U.株式会社 代表取締役)をゲストにお迎えします。
テーマは、「経営者のための、真に伝わる話し方、伝え方の技術」。
コミュニケーションに関する研修講師を務め、多くの著書も発表されている西任さんに、
真に伝わるように話すとはどういうことか?
部下と信頼関係を作るには?面接における技術とは?――
といったトピックについて、弊社代表・井上和幸と語り合っていただきました。全5回でお届けします。
井上 声の響きがその人の人間性をそのまま表すというのは、深いですね。
西任 深く響かせようと思って話すとか、そんなものではありません。究極は《何を言うか》ではなく、《誰が言うか》になってきます。ですから、話し方を教えていると、結局人間力を育むというところにたどり着くんですよね。もちろん技術はいっぱいありますけれど。
井上 僕には、記憶に残る名スピーチがいろいろあって、その中でもベストは、リクルートがダイエーの傘下入りしたときに、中内功さんが初めてリクルートの社員達の前で肉声で語ったものなんです。リクルートが買収された後に初めて開かれた「全社マネジャー会議」でした。僕は、まだぺーぺーで運営側のスタッフ(広報室)だったんですが、当時の社内の空気は、ダイエーに買収されたことは、ある意味でリクルート事件のときよりもショックが大きかった。業種も社風も全く違いましたからね。
今考えるとリクルートはあの時に中内さんに救ってもらって今がある訳ですが、当時は「リクルートを解体するんじゃないか」みたいな不安もあったし、感情的に反発していた人が多かった。それで当時管理職層が600人ぐらい集まる中に、いよいよ中内さんが登壇したのですが、結論を先に言うと、20分の予定だったのが40分くらい話されて、終わった後はスタンディングオベーションが起きました。「素晴らしい」「俺たち付いて行きます」という形で終わったんですね。そのとき、中内さんが話したことを僕の記憶で要約すると、「リクルートさんもずいぶん管理職がいるんですなあ」みたいな話から始まって、「こんなに優秀なマネジメントの人がこんなにいっぱいいる会社は素晴らしい。安泰だ」という方につなげた。
そして、「安心しなさい。屁でもないよ。たかだか480億程度(ダイエーが江副さんから売却を受けたリクルート株式の額)で、2兆円の借金はもれなくついてきたけれども(笑)、こんな優秀な会社を買えたのは本当にラッキーだ。リクルートの事業に対してダイエーや僕がこうしろなんていうことはおこがましい。逆にリクルートさんの素晴らしいクリエイティビティをダイエーグループにどんどん入れてほしい。皆さんのことは今まで以上に僕が守るから、今まで通りやってください」と。
こんな話をしてくれて、それでみんな安心した。実際もそうだったんですよ。いいことを言っておいて、後で反故にする人も多いと思うんですが、中内さんは一切そうしなかったですからね。
西任 それが嘘だったらその響きが出るはずですからね。そのとき、中内さんが本当にそう思っておられるということが伝わったんでしょうね。
井上 リクルートはその後V字回復をして、一方、ダイエーさんが最後に大変なことになったんですが、リクルートは本当にダイエーに足を向けて寝られないんですよ。日本代表をする経営者って、こういう人なんだなと思いましたね。
西任 その中内さんのスピーチがなかったらどういう展開になっていたかわからないですよね。
井上 そうですね。人前で話すときの勝負どころはありますよね。特に、このクラスの人になると……。ところで、西任さんは、人前で話されるときに、勝負どころというか、ピンチのときはどう乗り切るのですか。いろいろなトラブルがあると思いますが。
西任 この前、講演したときに最後の質疑応答の場面で、そういう状況がありました。経営者の方120名くらいにお話ししていたんですが、最後に高齢の参加者の方が手を挙げられて質問してくださいました。それに対して私がお答えしたところ、その方が一瞬沈黙されたんですね。それで、「お求めになっていた質問の答えになっていますか?」と尋ねたら、「それでは今日の話とはつじつまが合いませんな」と言われて……。その瞬間というのは、やはり吃驚するわけですよね。講演の最後の最後に、皆さんの前でそれまでのすべての時間が全否定されたわけですから。
井上 それは厳しいですね。
西任 かつての私なら、恐怖でフリーズするか、そうではないはずだと相手を説得しようとしたと思います。でもその瞬間に、私は参加者の方に「そのように受け止められますか?」と、落ち着きをもって伝えることができました。その発言を聞いた瞬間に、その人が私の主張によって傷ついておられることや、受け入れたくない強い抵抗を持たれていることがわかったからです。後から冷静に振り返って、自分が少し変わることができたかなと思えた瞬間でした。どんなに準備をしていても、コミュニケーションなんて、とっさに何が起こるかわかりません。その瞬間に、自分が出てしまうものなんですよね。
井上 どうすればそうなれますか。
西任 感情が揺れ動く瞬間を、見ていくことです。「不快」の方に着目しているかたが多いかもしれませんが、「快」も「不快」も根本にあるのは同じ価値観です。そこで、感情の揺れに気づいたら、その奥にある源泉を見ていきます。そこに自分がいるからです。
快のときに価値観を見直そうと考えるのは、少し難易度が高いので、まずは「腹が立つ」あるいは「羨ましい」といった不快感から見ていくのがいいかもしれません。
井上 そこで「自分の真の本音」にも気づくわけですね。
西任 申し上げたいのは、感情の抑圧と抑制は違うということです。多くの方は、感情を抑圧しなければならないと思っています。だから、怒りをぶちまけるようなことはしてはいけないと思っている。それは、その通りです。ただ、抑圧するということは自分の中で影を作っていくことですから、《出してはいけない自分》という影の自分をどんどん育てていくことになる。それは必ずどこかで爆発して出てきます。そうではなく、抑制するということなんです。
井上 感情を抑制するには、どうすれば?
西任 まずは、その感情が存在しているという事実を受け入れて認めていくことです。でも、人はその怒りが出てきたときに、「いや、自分はこんなことで怒る、そんなちっぽけな人間じゃないぞ」という《怒っていない自分》をやろうとするんです。本当は怒りがあるのに……。これは抑圧です。そのうちに麻痺してきて、怒りを感じなくなります。でもそれは怒りの源が消えたわけではなく、蓋をしたにすぎません。そうではなく、《自分は今すごく怒っている》ということを見るということですね。リアルな自分から逃げないことです。
それはある種、自分の見たくない一面だと思うんです。自分は寛容な人間だ。そんな感情なんかに振りまわされない人間だ。理性的な人間だ――。そういう良いイメージの、光の側の自分を私たちは生きていますから、感情の負に向き合うと、見たくない自分を見ることになるんです。だからこそ、その瞬間を見逃さないこと。そこがスタートですね。見たくない自分を見ていったときに初めて、分離していた自分の統合が始まっていく。
井上 深いですね。
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