TOP 社長を目指す方程式 たまには強気で「突き放す」戦略が、上司の“魅力”を光らせる

2022/06/09

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社長を目指す方程式

第90回

たまには強気で「突き放す」戦略が、上司の“魅力”を光らせる

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今回の社長を目指す法則・方程式:「レス・イズ・モア効果、他」

 
上司の皆さんが最近、最も留意していることは「パワハラ」ではないでしょうか? ひと昔前なら(良くも悪くも)当たり前だった叱り方が、ともすると「それ、パワハラですよ」と言われかねない時代。

これ、言ってよいだろうか?こんなこと言ったら、嫌われるかな? 問題にならないだろうか?

部下と話すこと自体にハラハラドキドキしている上司が増えていると聞きます。「すべてを受け入れて」「寛容に」という優しさがよしとされる今、あえて逆張りのコミュニケーションで上司として光ってみませんか?

 

冷たく接して、ブランドを獲得?!

従業員もお客さまとして扱うべし、などと言うことがありますね。接客の基本は「お客さまは神様」。ホスピタリティある対応を心がけよと、ショップでもホテルなどでも教育されます。

 

ところが、これが逆効果になるという研究結果があるのを、ご存知でしょうか。

 

サザンメソジスト大学、モーガン・ワード教授の調査によれば、こと高級ブランド店や高級レストランにおいては、接客で店員が「冷たく」接したほうがお客さまはその店の商品やサービスに対して高級感やブランド、洗練を感じるようになる。好ましい印象を持つようになることが分かったのです。

 

高級ブランドアパレルショップでは店員が冷たい接客をすると、商品はファッション性が高いと評価され、「ぜひこの服を着たい!」という気持ちを高めるのです。

 

質・レベルの高さを感じる印象は、歩み寄り・迎合に反比例する。

 

もしあなたの率いるチームが、高付加価値の商品やサービス、高度なソリューションを扱う事業や部署だったりするならば、この戦略が効果的かもしれません。

 

そうした組織のメンバーたちは、上司のあなたが手取り足取り、親切丁寧に「接客」してくれることで、逆に上司としてのブランド感を落としているかも? それよりも、少し距離を置いて、あえてこちらからは関わらずで接したほうが、「○○課長、できるな」「**部長、さすがクールだ」ということになるかもしれませんよ。

 

自己開示は「秘すれば花」

部下たち、あるいは取引先の方々と、人としての付き合いを深め、親密になるには、プライベートを含めての自己開示が大事です。人は、相手のプライベートな情報を知れば知るほど、心理的距離が縮まり親しさを感じるようになるからです。

 

ところが、自己開示のし過ぎは逆効果にもなる、という研究結果もあるのです。

 

ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン博士は、プロフィールに関する印象の調査を実施。自分の性格を4つ紹介・6つ紹介・8つ紹介・10個紹介するものをそれぞれ作り、「どれがもっとも好ましいか」を聞きました。すると、4つ程度の紹介は好ましく思われたのですが、それ以上、数が増えれば増えるほど、好意を感じてもらえなくなることがわかったのです。

 

相手と仲良くなりたい、親密になりたい。関係性が徐々に深まって、そのように思うと、相手に自分をもっと知ってほしい、相手も自分の話をよく聞いてくれるので、さらにいろいろと明け透けに話すようになる。これが一定レベルを超えると、相手から好意を得られなくなってしまう。

 

自分の情報については、ある程度の開示をしたら、逆にそれ以上は伝えないほうが良い。少し、分からない部分、知らない部分があったほうが、相手からの好意を得られるのです。これを心理学では「レス・イズ・モア効果」と言います。

 

世阿弥はこれを既に、室町時代初期に経験的に知っていました。その著書『風姿花伝』で、能を学ぶ者たちへの秘伝の一つとして、観客を魅了するコツは「秘すれば花」と伝えています。さすがですね。

 

皆さんはどうでしょう? 部下たちに頑張って自己開示し過ぎて、引かれていたりしませんか?(笑) 少しミステリアスな上司を演出してみてください。

 

叱れる上司でいるための自己防衛策

上記の通り、「開示のし過ぎ問題」はありますが、人は基本的によく知る人ほど親近感、親密性を感じます。相手を知ることはその人への愛着・共感を高めるが、だからこそ情に流されて厳しい態度を取れなくなってしまう面も。

ロンドン大学のハンナ・ザゲフカ博士は、100名強の大学生に2004年のスマトラ沖地震による津波被害についてどれくらい(災害の規模や被害状況など)知っているかについてと、その被災に対してどれくらい募金するつもりがあるかを聞きました。すると、津波被害についての状況をよく知っている人ほど多く募金しようとすることが分かったのです。

 

私たちは、相手のことをよく知れば知るほど、その人に憐れみを感じ、その人に対して冷たい態度を取れなくなります。相手を知ることはその人への愛着・共感を高めますが、だからこそ情に流されて厳しい態度を取れなくなってしまう面もあります。

 

さて、今回のテーマになぞらえれば、これはちょっといただけない部分がありますよね。そう、部下と親しければ親しいほど、彼、彼女が何かのミスを犯したときに、叱りにくくなるのです。

 

プロスポーツの監督などで、監督を務めている期間中は、選手たちとはプライベートで飲みに行ったりゴルフをしたりしないことにしているという方がいらっしゃいますが、これはまさに、厳しいプロの世界において、情でレギュラーを下ろしたり、契約解除しなければならないことに対応できなくなることを未然に防ぐ行動なのです。

 

そこまでやるか、とも思いますが、上司の皆さんの、社内での立場や状況によっては、あえて部下たちに(心理的な部分で)あまり近づきすぎないということも大事な場合もあるかもしれません。

 

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上司戦略として、自分の権威を高めたり上に立つ人間としての行動をしやすくするためのスタンスやアプローチも、ときには大事でしょう。その方法をご紹介しておいてなんですが、やりすぎで「嫌な上司」にならないように、くれぐれもお気をつけください!

 

約4年にわたって連載してまいりました当コラムですが、今回の第90回を持って終了となります。皆さま、長らくのご愛読をいただき誠にありがとうございました。

 

ご紹介してきた「社長になる方程式」を、上司の皆さまが現場で日々活用くださり、ご活躍され続けることをとても楽しみにしております!  

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プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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