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2022/03/29

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社長を目指す方程式

第87回

部下の頑張りに報いるのが難しいワケ 報奨金制度で失敗する4パターン

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今回の社長を目指す法則・方程式:ビクター・ブルーム「期待理論」

 
「部下の動機付け」は上司の皆さんの関心事であり、日頃から色々と取り組まれていらっしゃることと思います。任せて、認めて、褒めて、評価するということですね。
ただ、ちゃんとやっているのに、今ひとつしっくり来ない、部下に効いている気がしない…こんな「どうしてなんだろう?」という感覚を抱いたことがある方も、少なくないのではないでしょうか?
実は、これには理由があったのです。今回は部下の頑張りに報いることが難しい理由を、企業のインセンティブ制度の失敗パターンから読み解いていきたいと思います。

 

部下のやる気と努力を促すサイクル

そもそも部下たちは、どのようなときにやりがいを感じ、努力してくれるのでしょう?

 

「やったー、営業電話を頑張ったら、5件アポイントが取れた!」「今年は目標をハイ達成できてボーナスが去年の倍になった!」「プロジェクトを成功させることができたら、次のビッグプロジェクトの責任者に抜擢された!」

 

こんなときに部下たちは、達成感と充実を感じ、「次も頑張るぞ」と思うでしょう。

 

組織での人間行動の心理学的分析の第一人者として知られるビクター・ブルームは、人がやりがいを感じ努力するプロセス、メカニズムに着目し、「期待理論」を提唱しました。人は次のように感じることができるときに、モチベーションを感じて努力するのだと言います。

 

①努力すれば → 成果が上がる
②成果が上がれば → 報酬が増える
③報酬は → 自分にとって魅力的なものだ

 

この3つが揃ったときに、人はやる気が湧き「よし頑張ろう!」と思うのです。

 

「努力→成果」の過程で感じるのが<手応え感>、「成果→報酬」の過程で感じるのが<報われ感>、「報酬の獲得」で感じるのが<惹かれ感>とも言われます。この3つを提供できれば、当人のやる気が起き、努力してくれることをブルームの「期待理論」は示しています。

 

では、このサイクルをうまく回すためにはどうすればよいのでしょう?
まず、評価制度がしっかり設計されていること。そして、それが適切に運用されていることが求められます。どれだけ頑張れば、どのような評価を得ることができるのか。どんな成果を積み上げれば、どのように昇進できるのか。それらが設計されていることが重要です。
他方、上司に対する信頼が高ければ、特に「報われ感」についてはとても高まることが分かっています。皆さんの会社では、いかがでしょうか?

 

意外なインセンティブの「落とし穴」

これを具体的にするのに、最も使われるのが「インセンティブ」です。広い意味でのインセンティブによって、人の行動は変わります。業績評価の項目と結果のフィードバック、昇給や表彰の機会、昇進の機会、そして最もよく使われるのが報奨金でしょう。

 

上司や会社としては、部下の達成意欲を高めるために、年度の目標やその時々の重点テーマに対してキャンペーンを張って、インセンティブ(=報奨一時金)を出したりします。これを読んでいるあなたの会社にも、こうした制度はあるのではないでしょうか。

 

しかし、ここには意外な落とし穴があります。もちろん、こうした報奨金制度が、部下の頑張りを後押しすることは事実ですが、運用に気をつけないと、一般的に思われているよりも効果がかなり限定的になりうるのも、この報奨金なのです。

 

インセンティブの失敗は、主に次の4つのようなこととして現れます。

 

【その1:インセンティブ不感症】
報奨金は、最初にもらったときはとても嬉しいものですが、二度三度となるにつれて「慣れ」てしまい、ありがたみを感じなくなります。これを強めようとすると、額をUPさせるということになりますが、おいそれと額を増やすわけにはいきませんよね。せっかくの報奨金が、早晩、「なんだ。こんなに頑張っているのに、これしか貰えない」という気持ちにさせてしまうのです。
また、毎回同じ人が獲得するようになってしまうと、獲得できないメンバーに「どうせ自分はもらえないし」という思いを抱かせ、結果的に意欲低下をまねきかねません。

 

【その2:部門間や職種間の溝を作る】
報奨金は営業、また稼ぐ事業部に設定されることが多いですが、これがサポートスタッフや間接部門のメンバーの意欲を下げ、職種間・部門間の溝を生むこともよくあります。

 

【その3:当人の大義やプライドを傷つける】
なんでもかんでも報奨金という営業系の会社もありますが、そうすると「自分はお金のためだけに働いているわけではない」と、当人の志やプライドを傷つけ、逆にそのメンバーたちの意欲を削いでしまうことがあります。

 

【その4:不正を誘発する】
最近も大手M&A仲介企業や大手証券会社で営業に関する大きな不正が発覚し大問題となりましたが、報奨金やその前提となる目標達成に対する過剰なプレッシャーは、社員の不正を誘発してしまうことがあります。

 

これらはいずれも報奨金制度の負の側面で、せっかくのインセンティブが逆に社員や組織にダメージを与えてしまうこととなります。皆さんも直接・間接的に、これまでご経験されていたり、見聞きしたことがあるのではないでしょうか? その4は、流石にあってはマズいですけれども…。

 

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報奨金であれ、賞賛であれ、昇進であれ、人は「同額のインセンティブ」にはすぐ慣れてしまう生き物です。これを逆手にとって私たちのインセンティブをゲーム終了までくすぐり続けてくれるのが、ドラクエなどのRPGです。最初はHP1のスライムしか倒せなかったのが、ゲームが進むにつれてどんどん強いモンスターを打ち倒せるようになる。あのHPの逓増こそが、このインセンティブの中毒性を逆手にとったプログラムです。

 

このように、インセンティブでの動機付けには、常に「より大きな」インセンティブを提供する必要がありますが、現実の世界では当然のことながら限界があります。残念ながら、すぐに<弾切れ>となるわけです。

 

ブルームの「期待理論」で、ドーピング的な効果があることをご理解いただけたと思います。もちろん使っても良いのですが、使い方としては「ここぞというところで、効果的に」。使い過ぎにはくれぐれもお気をつけください。  

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プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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