2016/07/25
1/1ページ
スペシャルコラムドラッカー再論
第36回
企業はなぜ、イノベーションを必要とするのか。
- イノベーション
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
社長もメディアも、ことあるごとに事業変革や新規ビジネスを説くけれども、既存の事業がうまくいってれば別にいいじゃないか—–。
ドラッカーは、これに関して、面白い引用をしている。
「それぞれの世代がそれぞれの革命を必要としている」(トマス・ジェファーソンの晩年の言葉)
「存在の理由はなくなり、恵みは苦しみとなる」(詩人ゲーテの言葉)
どういうことか。
それは、発明も個人の活動も、あるとき求められ脚光を浴びたとしても、それはいずれ陳腐化し求められなくなるのだという厳然たる事実を指している。
「組織、制度、政策もまた、製品やサービスと同じように生命を失ったあとも生き延びる。目的を達したあとも生き延びる。目的を達せられなくとも生き延びる。一度出来上がったメカニズムは生きつづける。しかしそのメカニズムの設計にあたって前提とされたものは、先進国の医療制度や年金制度の前提となっていた100年前の人口構造と同じように変化し無効になっている。まさに“存在の理由はなくなり、恵みは苦しみとなる”」(『イノベーションと企業家精神』1985年)
ううむ、、まさにいま日本も、米国やECも直面していることではないか。
「われわれは、理論、価値、その他人の心と手によるあらゆるものが、歳をとり、硬直化し、陳腐化し、苦しみに変わることを知っている。かくして、経済と同様に社会においても、あるいは事業と同様に社会的サービスにおいても、イノベーションと企業家精神が必要となる」(『イノベーションと企業家精神』)
ドラッカーは、「革命ではなくイノベーションと企業家精神が必要」な理由は、その実行される姿にこそあると説く。
イノベーションと企業家精神は、社会や経済、事業に対して、急進的なものではなく(一挙にではなく)、段階的に、暫定的に行われる。そして、期待した成果、必要な成果をもたらさなければ消え去る。「言い換えるならば、教条的ではなく現実的であり、壮大ではなく着実だから」こそ、良いのだと。
「イノベーションと企業家精神は、ジェファーソンがそれぞれの世代の革命によって実現することを望んだものを実現する。流血、内戦、強制収容所、経済的な破局なしに、一定の目的と方向性とコントロールのものとに実現する。われわれが必要としているものは、イノベーションと企業家精神が当たり前のものとして存在し継続していく企業家社会である」(『イノベーションと企業家精神』)
かくしてドラッカーは、まず「マネジメント」を企業・社会に定着させ、次に「イノベーションと企業家精神」をそこに必須のものとして算入した。
これによって、現代の我々の企業活動・社会活動は基盤を整備されたといっても過言ではない。
そしてなによりも重要なことは、ドラッカーは巷間言われるように「お題目」だけを提供した訳ではない。その実際のアプローチ、方法論を我々に残してくれている。