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2016/07/19

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スペシャルコラムドラッカー再論

第35回

ドラッカー流自己分析法。

  • エグゼクティブ
今回は、閑話休題的に、ドラッカーが「ハーバード・ビジネス・レビュー」に寄せた論考集からちょっと面白い節を見つけたのでご紹介。

全てのことにおいて透徹しているかのように我々が感じるドラッカーだが、「自分自身のことは案外分からないものだ」と吐露している。妙に親近感を覚えてしまう。

「かく言う私も、苦手分野についてはずいぶん早くから知っていたのですが、得意分野については把握できていませんでした。とにかく私は他人と一緒に働くのがどうしても性に合わず、一匹狼として働くのが好きでした。私はコンサルタントですが、意思決定者には向いていません。何か決めても、翌朝には気が変わっているというタイプの人間だからです。
真の意思決定者はいったん決断したら、後は「果報は寝て待て」とばかり、夜はぐっすり寝るものです。私は50~60回も覆した挙げ句、みんなを混乱に陥れてしまいます」(『P.F.ドラッカー経営論』収録、「明日への指針(インタビュー)」)

苦手なことは早くから自己認識していたというドラッカー。では、得意なことについてはどう自己認識したのか?
「記録をつけることです」、とドラッカーは答える。

「私が自分の記録を付け始めたのは30年ほど前です。(筆者注:このインタビューは逝去される2年前、2003年のものなので、当時93歳。つまり60歳を過ぎてからということになる)50年もの間、人に勧めたり教えたりしてきたのに、やっと30年前にやる気になったのです(笑)」(同上)

ドラッカーも人の子、ということか(笑)。
これに続いて、なかなか面白い手法を明かしてくれている。

「何かを始める時や意志決定を下すときは、どんな結果を期待するのかを必ず書き留めておくことです。これに封をして、しまっておき、数ヵ月は触れないようにします。その後しばらくしてから何が書いてあったかを確かめるのです。すると、三つのことが見えてきます。

①私は何か得意なのか。
②新しいことを学ぶ必要があるのはどの分野か。あるいは私のナレッジ・プール(知識の集積)はどの分野にあるのか。
③不得手な分野は何か。」(同上)

なるほど。実際にやってみて、改めて意識の表面に持ちあげて確認してみると、自分の価値観や志向性、優先順位が確認できるということだ。

「私はいまでも年に二回、1月と8月にこれを実施しています。実はつい最近、8月の分をやり終えたばかりです。いまでも必ず驚くのですよ。自分の行動や考えのなかで「これこそ最善である」と思ったものは、まずうまくいきません。逆にあまり注意を払わなかったものが素晴らしい成果につながる。これこそ私が得意とするところなのです」(同上)

大切なことは、ここで発見した「強み=得手なこと」に時間を投入し、不得手な分野に無為に時間を費やさないことだとドラッカーは言う。

「「見込みなし」の状態から「可もなく不可もなく」へと改善しようと努力したところで、ほとんど意味はありません。不得手な分野で秀でた存在になれることは稀ですから」(同上)

強みに焦点を当てよ、と生涯、繰り返し経営者にメッセージを続けたドラッカーは、自らについてもそうすることで不倒の業績をマネジメントの世界において成し遂げたことは間違いない。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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