2016/02/01
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スペシャルコラムドラッカー再論
第11回
企業の現実(後編)
- マーケティング
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
(1)成果と資源は企業の内部にはない。いずれも外部にある
「およそ企業の内部には、プロフィットセンターはない。内部にあるのはコストセンターである。技術、販売、生産、経理のいずれも、活動があってコストを発生させることだけは確実である。しかし成果に貢献するかはわからない。」(『創造する経営者』1964年)
前項でも引用した通り、「成果は、内部にいる者や、企業の支配下にある者によって極められるのではない。市場経済における顧客、統制経済における政府当局といった外部の誰かによって決められる。企業の活動が、成果を生むか無駄に終わるかを左右するのは、企業の外部にいる者」(『創造する経営者』)なのだ。
(2)成果は、問題の解決ではなく、機会の開拓によって得られる
「問題の解決によって得られるものは、通常の状態に戻すことだけ」(『創造する経営者』)で、成果をあげることには直接役には立たず、あって、妨げを取り除くくらいのことなのだ、というのも、初めてこれを読んだときに、僕はかなり鮮烈な気づきを得た。
(3)成果をあげるには、資源を問題にではなく、機会に投じなければならない
ドラッカーは、企業の目的として意味があるのは、「利益の最大化」ではなく「機会の最大化」であるという。このことは、後日、別のコラムで取り上げることになると思うので、ここでは割愛するが、「機会の最大化というならば、企業にとっては、単なる効率ではなく成果こそが本質的に重要であるということになる。重要なことは、いかに適切に仕事を行うかではなく、いかになすべき仕事を見つけ、いかに資源と活動を集中するかである」(『創造する経営者』)
(4)成果は、有能さではなく、市場におけるリーダーシップによってもたらされる
「業績をあげるには、顧客や市場において、真に価値のあるものについて、リーダーシップを握らなければならない。価値のあるものとは、製品ラインの中の小さな、しかし重要な一部、あるいはサービスや流通、さらにあるいは、アイデアを早く安く製品に変える能力であってもよい」(『創造する経営者』)
差別化でもコストリーダーシップでもよいので、特定の顧客・市場から求められるものでリーダーシップを握れ。これはまさに、その後、ポーターが説く競争優位の戦略そのものだ。本書が1964年、ポーターの『競争優位の戦略』が1985年。ポーターがドラッカーを読んでいた?ということも、あながちなくはないだろう。
ともあれ、「利益とは意味ある分野において、独自の貢献あるいは少なくとも差別化された貢献を行うことによって得る報酬である。そして、何が意味ある分野かは市場と顧客が決定する。すなわち利益は、市場が価値ありとし、進んで対価を支払うものを供給することによってのみ得ることができる」(『創造する経営者』)
(5)いかなるリーダーシップも、うつろいやすく短命である
有為転変、諸行無常。すべてのものごとは、時々刻々と市場もプレーヤーも技術も移り変わり、一度得たリーダーの地位は、それで永遠に担保されるということなどありえない。だからこそドラッカーは、「事業の焦点を、問題の解決にではなく機会に合わせなければならない。リーダーシップを再創造して、その他大勢への落ち込みから反騰しなければならない。惰力に代えて、新しいエネルギーと方向性を手にしなければならない」と説く。企業家は、立ち止まることは許されないのだ。
(6)既存のものは古くなる
今日やっていることは、「昨日の事業(昨日までに作られた事業)」だ。
「既存のものは古くなる。あらゆる意思決定と行動がそれを行った瞬間から古くなり始める。したがって通常の状態に戻そうとすることは不毛である。通常とは昨日の現実に過ぎない」(『創造する経営者』)
(7)既存のものは、資源を誤って配分されている
ここでドラッカーはべき分布を説いているのが衆目だ。
「社会現象においては、一方の極の10&からせいぜい20%というごく少数のトップの事象が成果の90%を占め、残りの大多数の事象は成果の10%を占めるにすぎない」、いわゆるニッパチ(20:80)理論だ。
「社会現象の分布に関するこの簡単な仮説が、次のような大きな意味を持つ。
第一に、業績の90%が業績上位の10%からもたらされるのに対し、コストの90%は業績を生まない90%から発生する。業績とコストは関係がない。すなわち業績は利益と比例し、コストは作業の量と比例する。
第二に、資源と活動のほとんどは、業績にはほとんど貢献しない90%に作業に使われる。すなわち資源と活動は、業績に応じてではなく作業の量に応じて割り当てられる。その結果、高度に訓練された社員など最も高価で生産的な資源が、最も誤って配置される。
(中略)
第三に、利益の流れとコストの流れは同量ではない。経理の帳簿や経営者の頭の中では、利益とコストは循環しているが、現実は違う。確かに、利益はコストを賄う。しかし、利益を生み出す活動に意識的に力を入れないならば、コストは何も生まない活動、単に多忙な活動に向かっていく。資源や業績と同じように活動やコストも拡散する」(『創造する経営者』)
よって我々は、事業活動に対して資源がどう分配されているかについて、常に目を配り、利益を生まないコストに対して過剰に向けられている資源を別の、利益を出している事業活動へと再配分しなければならいのだ。
(8)業績の鍵は集中である
これまでの項から、必然、これは理解されるだろう。大手企業が必ずしもその業界での最大利益を上げるプレイヤーとなっていない原因は、これらにあるのだ。
「総合化・多角化の罠」に嵌る危険を、改めて認識する。
しかし、これが書かれたのが1964年。その後世界は「多国籍企業」「コングロマリット企業」が世界を制覇するという文脈でその枝葉を広げ、結果、巨像の苦しみに陥った。ITの進展とともに、専門プレイヤーが強みを発揮する流れが2000年以降続いているが、本来、企業家は、経営の出発点として、「集中」戦略を取らなければいけないことを、ドラッカーが改めて教えてくれている。
企業家的な三つの活動、今日の事業の業績をあげること、潜在的な機会を発見すること、明日の事業を開拓すること、をなぜ行わなければならないのか。
上記8つの現実を、しっかり認識し、腑に落とした上で、理解し行動していきたいものだ。