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2017/11/06

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スペシャルコラムドラッカー再論

第97回

社会的インパクトの処理~機会に転ずるか、規制を掛けるか。

  • エグゼクティブ
  • マネジメント
企業が社会に与えるインパクトを処理するには、その中身を明らかにする必要がある。

「社会、経済、コミュニティ、個人に与えるインパクトのうち、組織の目的やミッションの達成に不可欠でないものは最小限にすることである。できれば、なくすことである。組織内におけるものか、組織外の社会や環境に対するものかを問わず、無用のインパクトは小さいほどよい。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)

社会的インパクトの原因となっている活動そのものを中止して影響をなくすことができるのであれば、それに越したことはない。こればベストな解決策である。
だが、ほとんどの場合、該当する企業活動(経済活動)を中止することは難しい。
ここでドラッカーが提示するのは、”災い転じて福となす”策だ。

「ここにおいて理想とすべきアプローチは、インパクトの除去をそのまま収益事業とすることである。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

例えば公害対策、汚染対策そのものをビジネスとする。あるいは有害物質を除去した製品を高付加価値製品として販売する。
無農薬有機野菜などへの消費者のニーズの高まりなどが好例と言えるだろう。

理想形は、こうした、社会へのインパクトの除去を事業上の機会に転じることだ。
しかし、これも多くの場合、なかなか難しい。通常はインパクトの除去は、イコール、コスト増を意味する。

「外部コストとして社会が負担していたものが、企業のコストとなる。したがって、同業他社が同じルールに従わなければ、競争上大きな不利となる。同じルールの受け入れは、規制、つまり何らかの公権力の行使によってのみ実現される。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

コスト増なくしてインパクトを除去できない場合には、最小のコストと最大の収益をもたらす規制の方法を、他に先んじて検討することも企業の、マネジメントの責任であるとドラッカーは述べる。
その立法化の働きかけ自体が、マネジメントの仕事なのだ、と。

これはトレードオフの問題で、ある程度以上のインパクトを除去しようとすれば、得られる効果に対して累積的に資源、エネルギー、資金が必要となる。そこで費用と考課のバランスを得るための意思決定が必要となるのだ。
世論はこうしたトレードオフ問題に対してマネジメントが真剣に取り組むことを歓迎、評価する。

「このことは、ほとんどのマネジメントが知っていることである。ところが彼らは、手をこまねいて何もしない。行動するどころか検討さえ先延ばしにする。せいぜいがリップサービス止まりである。あるいは、敗れた後の後始末に精を出すだけである。」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

資源枯渇問題、技術進展による社会的なデバイド問題、あるいは気候変動問題。これらは純粋な自然現象からもたらされるものと企業活動が影響を与えているものとが複雑密接に絡んで、昨今、その対策の危急度は加速度的に増している。

我々経営者は、社会的インパクトについて、その対策を事業上の機会にすることが理想である。
しかし不可能ならば、最適のトレードオフをもたらす規制案を作り、公共の場における議論を促進し、最善の規制が実現するよう働きかけることが、マネジメントの責任である。
こればっかりは、ポピュリズム~「○○・ファースト」では解決されない大きな問題だろう。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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