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2017/03/06

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スペシャルコラムドラッカー再論

第64回

もっとも予測可能なもの、それは——。

  • マーケティング
前回取り上げた「われわれの事業は何か」との問いについて、ドラッカーはそれを考えよと述べたやいなや、さっそく警告を送る。
その答えが大きな成功をもたらしたとしても、それはやがて陳腐化する、と。

「事業の目的とミッションにかかわる定義のうち、50年どころか30年さえ有効なものはない。せいぜい10年が限度である」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)

よって我々経営者は、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は今後、何になっていくだろうか?」「われわれの事業の目的やミッションに影響を与える可能性のある経営環境の変化は認められるか」「事業の定義~事業の目的、戦略、あるいは日々の業務の中に、それらの経営環境の変化を現時点でいかに組み込むか」といったことについても考えねばならないのだ。

さて、その経営環境の変化はいったい、何によってもたらされるか?

ここでドラッカーは、面白い予測方法(視点)を我々に投げかける。

「出発点は市場とその可能性である。すなわち、「顧客、市場、技術に基本的な変化が起こらないものとして、5年後あるいは10年後に、いかなる大きさの市場を予測することができるか」「いかなる要因がその予測を正当化し、あるいは無効とするか」を問わなければならない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

この仮定において、最も重要な可変要素は、人口構造の変化、だ。

人は毎年、どの世代、どの国においても、1歳ずつ歳を取る。(当たり前だ。)

だが、これに注意を払っている企業は、確かに案外少ない。

「人口構造は、購買力、購買特性、労働力に影響を与えるというだけの理由で重要なのではない。人口構造だけが、未来に関して唯一の予測可能な事業だからである」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

人は皆、10代の後半から20代の前半で「労働力人口」デビューし、社会人としての活動を行い、一定比率が家庭を持ち、やがて年老い、退出し、非労働力となる。
その世代過程において、年齢に応じたものとその時代に応じた文化や技術を浴びることで嗜好性を確立し、次の世代に継承していく。

「マネジメントたる者は、経済構造、流行と好みの変化、競争相手の動きによってもたらされる市場構造の変化に備えなければならない。競争は、顧客が何を買うかによって規定される。したがって競争は、直接のものだけでなく、間接のものも含めて検討しなければならない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

いま二十歳の人たちは、生まれたときからインターネットがあった。
その下の子供たちは、物心ついたときからスマホをいじり、親が規制していなければSNSにアクセスしている。
バブルを謳歌した「若者」たちは、いまや50代~70代だ。その50代~70代は、戦前戦後の同世代とは、価値観・ライフスタイルからコミュニケーションに至るまで、まったくの別人種である。

これから、「誰がやってくるのか」、考えてみれば面白い。
確かに5年後、10年後、20年後の風景は、既にいま出現している。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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