2021/12/17
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経営幹部・エグゼクティブのためのキャリア&転職を考える
第17回
「ジョブ型」人事制度において、働く側が意識したいこと。
- キャリア
- 転職
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経済環境の変化や少子高齢化などを背景に、従来の日本型人事制度が見直されています。終身雇用や年功序列の概念がなくなりつつあり、「メンバーシップ型」人事制度から、「ジョブ型」の人事制度を導入検討する企業も出てきています。
「ジョブ型」の人事制度は、世代によって影響の幅が異なる
従来、日本企業の多くは「メンバーシップ型」の人事制度を取ってきました。これは、主に新卒一括採用の雇用システムです。企業は、職種や仕事内容を指定せず「総合職」と呼ばれる職種で人材採用をし、さまざまな部署を経験させながら長期的にその会社にあった人を配置、育成していきます。
対して「ジョブ型」人事制度とは、職務内容に基づいて必要な経験・スキルを持つ人材を雇用する制度です。欧米では一般的であり、ジョブに合わせた採用・人材配置を考えるため、専門性が問われます。キャリアチェンジの際には、その職務を行うスキルや経験を備えているか否かが重視されます。働く側も会社から与えられる教育研修の機会に頼らず、自ら専門性を高める意識を強くもつことが要求されます。
「メンバーシップ型」の雇用においては、未経験の仕事や思いもかけない職務に就いたが、実際にやってみたら自身に合っていたということがよくあります。「ジョブ型」制度が普及するとこうしたケースに出逢える確率が低くなります。これから社会に出る方々や比較的若手層の方々にとって、従来以上に最初の仕事選択がその後のキャリアに与える影響が大きくなるでしょう。
リーダー層・ミドル層の方々にとってはどうでしょうか。仮に「転職」と考えた場合には、実はそれほど大きな影響がないように感じます。中途採用の場合、企業は即戦力を求めることが多いため、結果的には「ジョブ型」の採用、転職活動になっています。マネジメント層についても同じです。
そもそもリーダー層・ミドル層については、企業の人事制度・雇用システムが「メンバーシップ型」か「ジョブ型」か、どちらであっても、成果を出せるか・貢献できるかが重視されるのです。
「ジョブ型」制度の中で、重視されること
「ジョブ型」が普及すると、働く側は自身のキャリアを企業に委ねず、自らデザインしていく必要に迫られます。なぜなら、職種を中心としたキャリア形成になるため、自分が選んだ職種でスペシャリストとしての道を歩むのか、または発展拡大させていくのか(営業から営業部門のエグゼクティブへなど)、さらには変更するのか(別職種や他社など)といったことを自分で主体的に考える必要があるからです。
必然的に個人が自分の強みや弱み、得意分野、成果を出しやすい環境と苦手な環境、何にワクワクするか、など自己認識を深めることの重要性が増してきます。
ひとつの手法として、「ライフラインチャート」を使って過去を振り返り、自分が大切にしている価値観に向き合うことが有効です。ライフラインチャートとは、縦軸に満足度・充実度、横軸に過去の年齢(時間軸)をとって、自己の内面を探求する曲線のことです。曲線の山(あるいは谷)部分の共通点やなぜ山(谷)になっているのか、自ら内省を深めていくことで、自分が大切にしていることやキャリア形成のテーマがぼんやりとでも見えてくるのではないかと思います。
また、個人を取り巻く環境には、結婚や育児、介護など様々なライフイベントが発生します。キャリアとは仕事だけではなく、家庭やその他の役割を全てひっくるめた人生全てを指すため、プライベートでの環境や役割が変われば、仕事における価値観も変わる可能性が高いです。定期的に自分と向き合い、なりたい自分に向けてどのようなステップを踏むことが必要かをイメージするとよいでしょう。
もし、キャリアを歩む際に「早く昇進・昇格していくこと」や「○歳で部長になること」といった内容だけを目標に掲げている方がいた場合、少し注意が必要です。職位はあくまでも何かを実行するための手段であり、前提として、職務を通じて何を成し遂げるのかがあるからです。この2つがないと、役割は得たがやりたいと思えないという事態が発生してしまうのです。
キャリア形成におけるテーマは、「ジョブ型」になっても変わらない
ここで、先日お会いしたお二人の例をあげたいと思います。AさんとBさん、お二人とも48歳で、もともとは同じ会社の同期入社でした。
Aさんは若い頃にヨーロッパに赴任する機会があり、現地の同僚が自分で仕事を選ぶ姿やなりたい職務につくため自ら次のステップをデザインしている姿に衝撃を受けたといいます。それまで自分が会社の辞令のまま職務に就いてきたと感じ、今後自らがどういう道を歩みたいのかを意識するようになったそうです。ヨーロッパでは営業から拠点全体を見る立場に役割を広げ、マネジメントとして組織を率い、チームで実績を上げることにやりがいを感じます。帰国後営業に戻りますが、営業だけではなく事業に関わる組織全体を率いたいと考え、社内外でのチャンスを探り、新規事業開発チームに異動。新規事業を立ちあげる中で、自身は消費者に近いサービスを展開しているところで、生活が少しでも楽になるようなサービスを手掛けることにやりがいを感じることを自覚、事業が軌道にのった後、今までの経験を他の場で生かしたいと、次の場を探しています。
Bさんは社内でも花形と言われる部署に長く在籍。社内でも出世頭と言われ、会社から与えられた役割をその時々で全うしています。中には自分の意に沿わないこともあったようですが、その中でもやりがいを見つけながら成果を上げ、若くして本部長に昇進されます。ただ、時代の流れにより会社を取り巻く環境が変化し、業績が悪化。このままでは、と不安に感じてご転職を考えています。今までの経験を活かせる場があればと少しでも関心があるものはなるべく数多く受けていきたいとお考えです。
みなさんはこのお二方の例から、何を感じますか。
私は、転職でご自身の希望の道をつかみ、充実した生活を送れるのはAさんだと考えます。Bさんは、転職先としての良い出逢いがあるかどうか、仮にあったとしても入社後「こんなはずではなかった」となるリスクがあります。なぜならば、ご自身のキャリア形成上のテーマが、会社の中での昇進や役職にフォーカスされており、管理する立場ならば何でもよいと考えておられるように見えるからです。
これでは、主体性を感じにくく、外部環境の分析や内省による自分なりのキャリアテーマも見えてきません。採用側の企業からしても、Bさんに何を期待できるか不明瞭であり、今時点でも転職は難しいですし、仮にご縁があった企業でもお互いの期待値がずれてしまう可能性が高いです。ジョブ型の時代では、さらに難しくなるでしょう。
人事制度がどうあろうと、個人のキャリアを自分で考えることは大切です。ただ、「ジョブ型」が進むと、従来よりもより一層、自ら意志をもってデザインしていくことが必要となり、より深いレベルで自己認識できるかどうかが重要になります。
ただ、これは一朝一夕に深められるものではないため、日々意識し、ご自身との対話を深めることの積み重ねになります。私たちキャリアコンサルタントや同僚、友人との対話の中でも気づくこともあるでしょう。
ご自分がワクワクすることや今後関わっていきたいこと、大切にしたい価値観などのご自分のテーマと自身が成果をあげやすい環境を意識し、みなさまが「ここでぜひやりたい!」と感じられる場に出逢えることを願っています。