2020/10/22
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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
第86回
逆風吹き荒れるコンビニをどう変えるか~3兆円の巨大ビジネスの変革を担う澤田貴司社長の挑戦
- キャリア
- ビジネススキル
- 上阪 徹氏 ブックライター
私はリヴァンプの創業直後に取材をしたことがあったが、ファミリーマートの社長として名前が挙がったときには正直、驚いた。2020年に伊藤忠の100%子会社になったファミリーマートだが、社長就任時、伊藤忠は筆頭株主だったからである。
その伊藤忠が、かつて伊藤忠を辞めた人物を指名したのだ。「出戻り」の抜てき、しかもこれほどまでの要職での起用は、日本企業ではそうそう例がないのでは、と思った。
実は澤田社長が伊藤忠を辞めた理由は、「どうしても小売業をやりたかったから」だったのだ。そこから20年後、伊藤忠にとっての最重要企業の一つ、ファミリーマートの社長を委ねられることになるのである。まるで、奇跡を描いたドラマのような話なのだ。
そしてファミリーマートでの第一歩がまた驚くべきものだった。社長就任前の夏、ファミリーマート一番町店で3週間にわたって店長研修を受け、売り場に直接、立っていたのである。
店舗のことを深く理解していない人間が、社長になるわけにはいかない。現場が分からなくて、どうやって仕事をするのか、と。
これには社員も驚くことになった。社長になる人物が、真っ先に売り場で研修を受けたのだ。しかも数時間、体験するのではない。3週間、他のスタッフと一緒に本格的な店長研修を受けていたのである。
商品の品出しや発注はもちろん、清掃も行い。レジにも立った。おむすびや弁当、サンドイッチ、お菓子を売り、看板商品の一つ「ファミチキ」をフライヤーで揚げ、宅配便の荷物を預かり、公共料金の支払に対応した。
キャッシュレス社会の到来で決算の方法は多様化しており、またポイント連携も複雑になってきている。さらに、支払いのとき、「この商品券を使いたい」といきなり差し出されることもあった。その瞬間瞬間で、パッパッパッと頭を切り替えなくてはいけない。
取材で、こんな言葉を聞いた。
「たくさんの会社の経営や再生に携わってきて、分かったことがあるんです。それは、おかしくなった会社は、リーダーが現場を理解していないということです」
社長就任後、加盟店訪問件数は2年半で約700店舗にのぼった。交流は訪問だけにとどまらない。LINEで加盟店と直接つながった。これには、店舗の指導を担うスーパーバイザーから、こんな声が飛んだ。トップとつながるのは、リスクがあります。
しかし、これでは済まなかった。後に、全店レベルのアンケートを実施するのである。まさにパンドラの箱を開けるような作業に懸念の声も上がった。しかし、澤田社長は涼しい顔だった。今や毎回4000~5000件程度は回答が集まる。こうした声を受けて、改革は着々と進んでいる。
「何十社もの経営に携わって、失敗もしてきました。社長でござい、なんて分かったようなふりをして指示を出したって、誰も動かないですよ。そんなことより、現場を理解して、吐くくらい仕事をする。失敗してからは、ずっとそうしてきました。それがリーダーの仕事です」
ファミリーマートの改革は、まだまだ途上。コロナという逆風も加わった中、どう変わっていくのか。ますます改革の難度は高まっている。日本マクドナルド再生の立役者の一人、足立光氏のCMO(チーフマーケティングオフィサー)就任も発表された。澤田社長のアグレッシブな挑戦は今も続いている。
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■書籍情報
『職業、挑戦者: 澤田貴司が初めて語る「ファミマ改革」』
著者:上阪 徹
出版社:東洋経済新報社
価格:1,760円(税込)
※この記事は、アイティメディア株式会社の許諾を得て
「ITmediaエグゼクティブ『ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術』」
の連載から転載したものです。無断転載を禁じます。
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