2018/03/05
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禅の教えに学ぶ経営道+リーダー学
第1回
今、世界のエグゼクティブたちはなぜ、禅に傾倒するのか。(1/5)
- スペシャル対談
- 経営
「経営者を語る」――今回は、経営者と禅僧の2つの顔をお持ちの島津清彦氏(株式会社シマーズ代表取締役)をゲストにお迎えします。
島津さんは、新卒で不動産会社に入社。35歳で役員に昇格した後、42歳でグループ会社の社長に就任されました。しかし、2011年の東日本大震災を経験して価値観が大きく変わり、翌年に47歳で独立起業を決意します。
同時期に禅と出会い、真理を本気で学ぶために出家。現在はコンサルティング会社を経営する傍ら、禅僧として経営者から幼稚園生まで幅広い層に向けて禅の精神を説く活動を進めていらっしゃいます。
今回の対談では、「禅で磨く〝経営者の心・技・体″」などのテーマで、弊社代表・井上和幸と語り合っていただきました。全5回でお届けします。
井上 エレベーターを降りてオフィスの扉を開けると、予想もしていなかった素敵な和風空間が目に飛び込んできたので驚きました。座禅ができる和室もあって、癒しのオフィスという感じですね。玄関には「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」と書かれた札が足下に置かれていましたが、これはどういう意味なのですか。
島津 「脚下照顧」というのは、「常に自分の足元、自分を顧みることを忘れてはいけないよ」という意味です。現代はスピード社会ですから、即断即決のできる人が優秀なリーダーと呼ばれますが、時には立ち止まって、自分の足元をよく見つめる機会も必要です。そして、現場に足を運んだり、お客様や社員の声に耳を傾けて、時代の流れを読む――。課題もチャンスも、自分の足下にこそあるわけですからね。
井上 たしかにその通りですね。こんな言葉が足下にあると、良い気づきになります。さて、この対談を始めるにあたって、まずは素朴な質問からさせていただいてもいいでしょうか。そもそも「禅」って何なのでしょう? これって、意外と答えられないですよね。禅僧である島津さんは、そう聞かれたときにどうお答えされているのでしょうか?
島津 「禅とは何か?」と聞かれて、「これだ!」と答えるのは難しいんです。僕もいろいろな答えを話すんですが、結局、シンプルに言うと、禅とは「座禅」なんです。さらに、答えを出すなら「真理」ですね。「まことのことわり」。あらゆるものの摂理、原理原則、宇宙・自然の摂理です。「宇宙」などと言うと、視点が突然飛ぶので皆さん急にポカーンとなってしまうんですが、ようするに《宇宙の摂理に気づいて、無理をしないで自然体で行くことが一番上手くいく》――。それに気づくために座禅を組むんですね。だから、禅とは何かと聞かれると、最近はシンプルに「座禅です」と答えています。
もっと奥深く言えば、「とりあえず座禅すればいい」。これも答えです。座禅って一番近いところにあって、やろうと思えばすぐにできることですよね。禅の教えでは「只管打坐(しかんたざ)」といいますが、これはつまり、言葉にできないことを感じ取るために、ただひたすら座禅をしなさいということです。考えこまずに、まず行動しよう――と。 井上 日常の中でとても簡単に実践できることが、極めて奥深い真理につながっているわけですね。
島津 そうです。例えば、朝が来て夜が来るのが宇宙の摂理。それなのに昼夜逆転の生活をしていたら病気になりますよね。商売も一緒です。夏は暑いから、熱いお汁粉が売れず、冷たいかき氷が売れる。あるいは、現代の街頭で、着物姿の男が刀を振り回していたらたちまち警察に捕まってしまいますが、世が戦国時代ならそんな振る舞いもおかしくありません。
これらは単純な例ですが、そういったことに気づけば、世の中の流れや自然の摂理には逆らわない方がいいとわかります。特に経営者やリーダーというのは、人を導く立場ですから、経営者こそ、今ここで生きていく時代の流れに目を向けるべきだし、また、きちんとした真理・摂理に従わなければ、何事も上手くいかないと思います。
井上 そもそも、そこを追求したのがブッダでもあるわけですよね。
島津 そうですね。座禅というのは約2500年前にブッダが最終的に悟りを開いたときの姿勢です。それまでさまざまな修行をしても悟れなかったのが、岩の上に草を乗せ、そこに座って瞑想し、悟りを開いたわけです。われわれ修行僧は、それをただそのまま実践することで、できるだけその境地に近づくということですから。
井上 人として、あるべき姿に近づくというか……。
島津 みんな「軸」になるものを探し求めているんです。例えば、経済的、物質的に成功したけれども、「これってハッピーなの?」と感じている人は多いですよね。きっとそういう時代背景もあって、今、禅が注目されているというか、関心を持たれているのだと思いますね。