2017/02/06
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スペシャルコラムドラッカー再論
第60回
「われわれの事業は何か」。
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
「なにを、バカな!」。
答えられない人など、まずありえない。こう思う、回答するのが、当然であり当たり前であるはずだ。
「自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないように思われる。(中略)
しかし実際には、「われわれの事業は何か」との問いは、ほとんど答えることの難しい問題である。正解はわかりきったものではない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)
また、ドラッカーらしい、何か哲学的な、深淵なものの言い方をしているな。そう思われるだろうか。
この件で、おそらく当コラムの読者であるような経営者各位にはよくご存じの例として、19世紀に栄華を極めた大陸横断鉄道会社が、その後の航空機事業の発展で衰退してしまったことについて、事業の定義を「わが社は鉄道会社を営んでいる」と考えずに「わが社は人と貨物の輸送事業を営んでいる」と考え時代の変化、技術の発展に対応すればよかったのだというものがある。
ドラッカーは『マネジメント』内で、同様のケースでの成功事例としてAT&Tやシアーズの例を挙げている。ご興味ある方はぜひ参照して欲しい。
「ほとんど常に、事業の目的とミッションを検討していないことが失敗と挫折の最大の要因である。逆に、AT&Tやシアーズなど成功を収めている企業の成功は、「われわれの事業は何か」を問い、その問いに対する答えを徹底的に検討することによってもたらされている」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
ドラッカーは、マネジメントの多くがこの問いを突き詰めて考えたがらない理由について、それが社内で議論を巻き起こし、見解の違いをもたらすからだと述べている。
「この問いは、トップマネジメントのメンバー間に考えの違いがあることを必ず明るみに出す。長年ともに働き、考えを知っていると思っていた者たちが、突然、きわめて基本的なことで考えが異なることを知って愕然とさせられる」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
ぶれる、ということは、概ねこのことから起因して起こると、僕自身もマネジメント、経営をしてきて、過去の体験から実感(痛感)する。
そもそもの対象顧客のあり方、また自社のサービススタンス、行動規範などまで、「われわれの事業(・商品・サービス)は何か」が理解されていないことから、そのずれやブレは起こる。逆に、それ以外の発生原因はない、と言えるくらいだ。
一方で、先にも触れた通り、顧客や市場は常に変化していく。
「われわれの事業(・商品・サービス)は何か」が、いつのまにか陳腐化、時代遅れなものとなっていることも少なくない。特に我々がいまいる、この激流の21世紀ならなおさらだ。
だからこそ、我々経営者は常に問い続けなければならない。「「われわれの事業(・商品・サービス)は何か」、と。
「企業の目的とミッションを定義するとき、そのような焦点となるものは一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)
事業は、自社の会社名や定款や設立趣意書、あるいは会社案内などで定義されるのではない。
顧客が求める財やサービスを顧客が購入してくれて、彼らが得る満足によって定義されるのだ。
顧客にとっては、自社の財やサービスが何なのかなど、極論、まったく関係ない。
顧客が知りたいことは、その財やサービスが、自分にどれだけの満足を与えてくれるのか——不満を解消、解決してくれるのか。快を与えてくれるのか、だけだ。
「顧客にとっての関心は、自分にとっての価値、欲求、現実である。この事実だけからも、「われわれの事業は何か」という問いに答えるには、顧客とその現実、状況、行動、価値観から出発しなければならない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)