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2017/01/30

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スペシャルコラムドラッカー再論

第59回

事業の定義は、なぜ必要なのか。

  • マネジメント
古今東西、永続する企業、事業の共通項として、自らの決定と行動を規定する明確な事業の定義を持っていた(持っている)ことが挙げられる。

「ひらめきに頼ることなく、明確でシンプルな事業の定義をもつことは、自らが財をなすだけでなく、自らの亡きあとも成長を続ける組織を築きあげるという真の企業家の特徴である」(『マネジメント–-課題、責任、実践』、1973年)

そもそも、一人で事業をしているだけならば、自らの事業を定義し説明する必要はない。自分だけが分かっていればよい。もしかしたら、自分の中でも曖昧なままですらよいかもしれない。戦略・戦術と実行、その修正は、自らが思いつくまま気ままに行えばよい。

実際問題、こうした個人事業主が永続的に上手くいくということはあまりないのが現実だが、ときおり、天性の商才を発揮され、時流に乗り続けて商売をされるカリスマもいらっしゃる。そしてその際、そのパワーの卓越さゆえに、かなりの事業規模・組織規模になっても、トップの思い付きと勘で走る続けているごく限られた成長企業も存在する。

しかし、ドラッカーが説く通り、企業はトップひとりのみで成長発展することはまず難しい。トップマネジメントチームが必要だ。
トップマネジメントチームが、またそのもとで現場のマネジメントからスタッフに至るまでが、そのときどきに、環境変化に適応しつつ、自らを成長発展させ続けていくために「なにを」「どう」すればよいのかを統率をもって判断・実行していくためには、事業が明確に定義されていることは不可欠だ。

「事業の定義が明確に理解されないかぎり、いかなる企業といえども成り行きに左右されることとなる。自らが何であり、自らの価値、主義、信条が何であるかを知らなければ、自らを変えることはできない」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

現場は現場なりに、漠然とであっても、自らの事業について何らかの定義をもって決定を行っているし、組織の内外の状況について何らかの見解をもっているものだ。どのような成果が望ましく、また、どのような成果が望ましくないかについても、各々考えがある。

「したがって、企業自らが、つまりトップマネジメントが、この問いについて徹底的に検討を行い、答えを出しておかなければ、上から下にいたるあらゆる階層の者が、それぞれ相異なる両立不能な矛盾した事業の定義に従って決定を行い、行動することになる」(『マネジメント–-課題、責任、実践』)

互いの違いに気づくことなく、バラバラの方向に向かって努力を続けることや、間違った定義に従って間違った決定を行い間違った行動を、現場がすることほど、もったいなく残念で、企業を危機に陥らせるものはない。

企業が正しく進むとは、あらゆる組織において共通のものの見方、理解、方向づけ、努力ができる状態にすることだ。
あらゆる組織において共通のものの見方、理解、方向づけ、努力ができる状態にするには、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を定義することが、不可欠である。

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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