2021/09/28
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社長を目指す方程式
第74回
私たちはなぜ、誰かに何かを頼むことを気まずく思うのか?
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- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
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今回の社長を目指す法則・方程式:デイビッド・ロック「社会的脅威の5つのタイプ」 |
一方、できる社長や社長になる上司は頼み上手で、気軽にサクサク頼みごとをしているように見えます。いったい何が違うのでしょうか。今回は、人にものを頼む際に感じる「気まずさ」や「気持ちの重たさ」を取り除く方法を考えてみましょう。
「億劫な気持ち」は脳の痛みに?!
私たちは誰かに頼みごとをすることについて、なぜ苦痛を感じるのか。まずひとつには、その精神的なストレスについて脳が現実に痛みを感じるからだという研究結果があるのをご存知でしょうか。比較的新しい科学分野である心理神経学、社会神経学において、脳が筋肉のけいれんやつま先をものにぶつけたときに感じる身体的な痛みを処理するのと同じような方法で、他者との関わりから生じる不快感を処理していることが明らかになっているそうなのです。
脳科学研究者で、神経科学者とビジネスリーダーを一堂に集めた世界的イニシアチブである「ニューロリーダーシップ・サミット」の創設者であるデイビッド・ロックは、私たちの脳が物理的な痛みを感じるときと同じように反応し、記憶力や集中力の低下をもたらす「社会的脅威の5つのタイプ」があることを発表しています。
1.「ステータスへの脅威」から生じる痛み
他者と比較した自らの価値や重要性の認識が脅かされる、貶められることで感じる痛みです。人は他者に何かを頼むときに、無意識的に自分のステータスが下がるのではないかと感じがちです。
2.「確実性への脅威」から生じる痛み
人間には「未来を予測したい」という生まれ持った欲求があります。これは先が見通しにくい、あるいは何か不測の事態が起きるのではないかといことについて感じる痛みです。他者に何かを頼む際、それを受けてくれるかどうか分からないと思うことは多いでしょう。
3.「自律性への脅威」から生じる痛み
人は自分で物事を選択し行動しているという感覚がありますが、これが侵されることで感じる痛みです。ものを頼んだ際に、相手の反応を受け入れざるを得ないということがその人の自律性を脅かします。
4.「関係性への脅威」から生じる痛み
ここでいう関係性とは、集団への帰属意識や他者とのつながりのことを指しています。これが脅かされることで感じる痛みです。もし依頼したことについてNOと言われると、そのことで依頼した人は疎外感を感じがちです。
5.「公平性への脅威」から生じる痛み
私たちは公平に扱われることに対して非常に敏感です。これが損なわれることで感じる痛みです。自分の依頼にNOと言われたときに、相手との関係に公平性を感じることはなかなかできません。
どうでしょう。私たちが何かを他者に頼もうとすると、これだけの脅威を感じ、痛みを感じるのです! これでは「そんな(痛い)思いをするくらいなら、依頼するのはやめておこう」と常に思ってしまっても仕方がないとも言えますよね…。
低く見積もりすぎ?「頼みごと」受けてくれる確率
これだけの苦痛を感じざるを得ないなら、私たちはむやみに何かを依頼・相談すべきではないのでしょうか?上記の通り、誰かに何かを頼む際に感じる「苦痛の大きさ」は、その要求がどれくらいの割合で拒絶されるかという予測によってかなりの部分、変化します。しかし、私たちはこの予測がとてつもなく下手なのです。
コーネル大学の組織行動学教授、バネッサ・ボーンズは、人はなぜ誰かに直接的に頼み事をするときに、相手がそれを受け入れてくれる確率を実際よりも大幅に低く見積もるのか、について研究しました。その実験例をいくつかご紹介しましょう。
・コロンビア大学の学部生が、キャンパス内の見知らぬ人に10分ほどかかるアンケート調査を依頼する実験で、事前に被験者に「5人に記入してもらうまでに何人に声をかける必要があると思うか」を尋ねたところ、回答の平均は20人だった。しかし実際には平均10人で済んだ。
・被験者は、キャンパス内で見知らぬ学生にiPad上に表示される雑学クイズに答えてもらうゲームをやり、一定時間内でどれくらい回答してもらえるかについて、事前の予想では平均25問だったが、実際は49問だった。相手のクイズ正解数、クイズを解くための時間のいずれも少なく見積もった。
・募金ボランティアたちに、「所定の募金目標額を達成するために何人に連絡を取る必要があるか」と「一人あたりの平均寄付額」を尋ねたところ、予想は平均210人、平均寄付予想額は48.33ドルだったが、実際には平均122人で目標達成でき、平均寄付額は63.8ドルだった。
ボーンズは被験者延べ1万4000人以上の「見知らぬ人」に様々な種類の頼みごとをした研究を分析し、被験者が成功率を平均48パーセントも低く見積もっていたことを明らかにしました。私たちが思っているよりも約2倍、人は頼みごとを受けてくれるということなのです。
「頼まれた側」の心理を紐解く
頼まれた側に立ってみれば、気がつくことも色々とあります。私たちは誰かに何かを頼まれると、その人がよほど嫌いな人でなければ、期待に応えよう、イエスと言わなければ、というプレッシャーを感じます。特に面と向かって頼まれると、おいそれとは断れないですよね。『影響力の武器』で有名なロバート・チャルディーニが実験で明らかにした説得テクニックに「ドア・イン・ザ・フェース」と「フット・イン・ザ・ドア」がありますが、これも頼まれた側が断りにくくなる心理を説明しています。
「ドア・イン・ザ・フェース」は、大きな頼みごと(玄関のドアをピシャッと閉められてしまうような)を先にして断られた後に、それよりも小さな頼みごとをすると相手が受け入れてしまう心理です(ex.海外旅行はNGだが、週末の小旅行はOKになるなど)。これが説明していることは、人は一度断ったからといって二度目も断るわけではなく、逆に一度目に断った申し訳ない心理が働き、特にこのテクニックのポイントである「より小さな、控えめな」要求には応えてしまうことになるのです。
「フット・イン・ザ・ドア」は逆に、一度何かに応えたことがあると、その一貫性を保とうという心理から二度目、三度目も依頼を受けてしまう心理を使ったテクニックです。SaaS型サービスなどで、まずは無料、そこからライトプランのユーザーへ、さらに上位プランへとアップセルをかけていくのが効果的なのは、この心理を使ったセールステクニック、ビジネスモデルです。
少しうがった見方に見える、頼まれた側の心理を紹介しましたが、純粋に、人は頼まれたことに応えて、相手に喜ばれることで自分も大きな喜びを感じます。また、人は自分が助けた人を好きになる(これも一貫性を保とうという人間心理が働く結果でもありますが)ともいえるでしょう。
このように、案ずるより産むが易しで、私たちは何かを実際に頼んでみると、相手は事前に思っていた以上に受け入れてくれるし、快く助けてくれるものなのです。
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「人は頼み事に応じることで、依頼者に好意を持つようになる」。上司のみなさんとしては、この心理を使わない手はないですよね。
この相手心理を知ったからには、頼み上手な上司となり、相手からの「助け」と「好意」の一石二鳥を得る<上手い(ズルい)>上司になりましょう。
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※現状ご経験に合う案件情報が無い場合には、案件情報が入り次第のご面談とさせて頂く場合がありますこと、あらかじめご了承ください※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
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