TOP 社長を目指す方程式 ビジネスパーソン“必勝”の職場心理学 主導権を握る2つのコツ

2021/03/27

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社長を目指す方程式

第62回

ビジネスパーソン“必勝”の職場心理学 主導権を握る2つのコツ

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今回の社長を目指す法則・方程式:

「心理的リアクタンス効果、ザッツ・ノット・オール技法」

 
いよいよ新年度がスタートしますね! 組織替えがあっての新しいスタート、昇進後の新しいチーム、あるいは転勤先や転職先での心機一転。
新しい職場で上司の皆さんが好スタートを切るために大切なことは、新たな環境でご自身がリーダーとしての主導権を握ることです。今回は、心理学を使って少しだけ策士のように戦略的に主導権を握る方法をご紹介しましょう。

 

「限定」が私たちの欲しい気持ちに火をつける

主導権を握るために必勝の2つのコツがあります。

それは、「限定」と「追加提示」です。

 

人は「限定**品」「あと**個だけ」「もう手に入らない」と言われることに非常に弱い生き物です。これを回避しようとすることは「心理的リアクタンス効果」と呼ばれ、自由を制限されたり奪われたりすることを回避し、自由を回復しようとする心理のことを指します。

 

例えば、こんな話です。この1年、自宅に仕事場スペースを設けた方は非常に多くいらっしゃったと思います。あなたは、せっかくなら気持ち良い空間にしようと思い、仕事用のデスクと椅子を購入するべくホームセンターに出かけました。

最初に訪れた販売コーナーに、素敵なデスク&チェアセットAがありました。「おお、なかなかいいな」と思いつつ、他にも見てみようと、一旦その場を離れて別のコーナー巡りへ。すると今度は、自分好みのデザインのデスク&チェアセットBがありました。値段はAと同じですが、Bの方が自分のセンスに合致していると思ったあなたは、内心「これで良いな」と思いつつ、もう一度先ほどのセットAを確認に行きます。するとAには<売約済>の札が貼ってあることに気づきました。途端にあなたは、無性にAが欲しくなり、店員を捕まえて「同じものを取り寄せできないの?」と聞いてみることに―。

 

この状況では、横並びならAよりBの方に気持ちがあったはずなのに、Aを購入できるという自由を奪われると、それを逃したという心理がAへの渇望を掻き立てるのです。
「先着***名様限り」「この特価は今から1時間以内だけ」は、もはや語る必要もない通販番組の王道アプローチ。分かっているのに、毎回やられてしまっている読者の方もいらっしゃるのでは? 「売り切れ間近」はときに、売り切れ間近と言われたことでお客が殺到したため、実は告知段階ではそうではなかったものが本当に売り切れ間近になった、などということが現実によく起こるわけです。(心理学の悪用は決してお薦めいたしません!)

 

では上司の皆さんが、この「限定」を使うにはどのようなときが効果的でしょうか。
例えば、部下に任せたい仕事は、ただやってくれと言うのではなく、「これを担当できるチャンスは今だけだよ(キミが担当しないなら、別のCくんに担当してもらうことになる)」と言うこともできます。
プロジェクトの任命や異動希望の受け入れ、あるいは新規採用であれば、絶対に先にオファーを出してはダメです。「あなたが(どうしても)このポジションでやってみたく、いま意思決定するなら、あなたにお願いする手続きを取ろう」などと言えます。もちろん、その仕事が当人にとって魅力あるものであることは大前提です。

同じ条件が「追加」で値引きになっただけで?!

 もう一つの戦略、「追加提示」。人は「おまけ」や「追加値引き」にもまた、非常に弱いものです。


 

サンタ・クララ大学の心理学者ジェリー・バーガー博士は、カップケーキを使った販売実験でこのことを実証しました。
対象のケーキは意図的に値札をつけず、お客様から聞かれたら答えるようにし、2つの回答パターンを設定しました。その1は、値段を聞かれたら「75セントです」と答えます。その上でお客様が迷っていたら、「クッキーを2枚おまけにつけますよ」と追加回答します。その2は、値段を聞かれたら「クッキー2枚とセットで75セントです」と答えます。
さて、どちらのほうがよく売れたでしょう? 結果は、訪れたお客のうちケーキを購入したお客様の比率は、その2が40%に対して、その1では73%だったそうです。
さらにバーガーは、値引きバージョンも試しました。その1では、値段を聞かれたら「1ドルです」と答え、迷っていたら「75%に値引きしますよ」と追加回答します。その2では、最初から「75セントです」と答えます。結果は、その2が44%であるのに対して、その1が73%というものでした。追加作戦は、おまけも値引きも、およそ2倍近くの販売実績をもたらしたことになります。

 

最初から全部を提示されるのと、最初に一部を提示してその後に追加でおまけや値引きを提示するのとでは、圧倒的に後者の方が契約成功の確率が高いということがこの実験で実証されました。
なぜこうなるのかについては、「返報性の原理」で断りにくくなる心理(考慮してもらって申し訳ないという気持ち)と、「対比効果」で魅力的に感じる心理(最初の提示と、追加でおまけや値引きをされた提示では、後者が魅力的に思える気持ち)が働いているのだろうと言われています。皆さんの購買心理的にも、結果、理由ともに納得だと思います。

 

後から好条件を追加する心理テクニックを「ザッツ・ノット・オール技法」と言います。これについては私の実体験として、昔、大口取引先であった某・大阪本社の大手企業の部長に教えられた「値引き提示法」があります。
東京支社のほうで先に受注確定していたものがあり、それと同じサービスを大阪本社でも決裁いただくことになっていて、私が東京と同じ見積書をお持ちしたところ、「井上くんなぁ、商売分かってへんなぁー」と一喝。「これは、そのままこの値段でやってくれゆう見積もりやろ? これじゃあ、俺の顔が立たん。**%金額を乗せた見積もりを一度出しなさい。すれば、俺が役員に、見積もりはこれこれだけど、それをこの額に値引きさせました、と言える。俺も役員も値引き仕事ができた。キミは受注したい額で受注できる。な、こうすればええんや。役員も俺もキミも、全員顔が立って大満足や」。
私は純粋に、なるほどー!と感服しました(笑)。まさに関西の値引き文化は、この心理的テクニックを売る側も買う側も使い、楽しみ、満足度をあげているのでしょうね。
これをやるために正価を詐称したり盛ったりすることは道義に反することですし絶対にやってはいけません。一方で多くの上司の皆さんが、ご自身の裁量での値引き対応ラインなどをお持ちだと思います。その際に、最初から「出精値引き」で見積もりや請求書を出すのではなく、最初は正価で。そのうえでの交渉プロセスにおいて追加で可能な値引きラインをお伝えするほうが、クライアントやお客様の満足度、購入意欲は倍近く高まる可能性が高いのです。

 

さて、では上司のあなたが部下たちに提示できる「おまけ」「値引き」は何でしょう? 高い目標を追う必要があるときや、仕事の納期を握る際には、このテクニックは使えそうですね。「しかたないな、本来これくらい(までに)やって欲しいのだが、キミの日頃の頑張りに免じてこれくらい減額しても(日数を伸ばしても)よいよ。そのかわり、これで必ず達成頼むね!」。上司のあなたは、その「値引きしたライン」でも部や課の目標には到達するようコントロールすれば、しめしめです(笑)。しかしまさか、査定の考課点数や給与額、賞与額にこのテクニックを使う訳にはいきませんのでご注意を。

 

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上司としてはぜひ握りたい主導権。そのためのテクニックを繰り出すに当たり、せっかくなら相手に「得した」「良かった」と思ってもらえる交渉をしましょう。できる社長はみな、この手の交渉に優れていますね。「やられたなぁ、でも憎めないな」、あなたもそんな風に思った瞬間がこれまでに何度かあったのではないでしょうか。

負けてはいられません! あなたも社長に負けず、堂々と「限定」と「追加提示」を駆使して主導権を握りましょう。

   

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プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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