2020/12/22
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社長を目指す方程式
第55回
「やられたらやり返す」はやはり正しかった? 上司の人間関係学
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- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
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今回の社長を目指す法則・方程式: ロバート・アクセルロッド「しっぺ返しの法則」 |
「半沢直樹2」の大ブームは今やすっかり「鬼滅の刃」に上書きされてしまいましたが、思い返せば今シーズンでは「倍返し」よりも「恩返し」のほうをドラマで強調しSNSでの話題もこちらに軍配が上がったところに、7年前とは異なる昨今の風潮があったようにも感じます。
一部では「倍返し、10倍返し、1000倍返しと、徹底的な仕返しを礼賛するのは如何なものか」という批判もあった半沢直樹。ところが、「やられたらやり返す」のは正しい行動であるという理論があるのです。
駆け引きに最終的に勝つのは「最もシンプルなしっぺ返し戦略」
私たちは日頃、顧客やベンダーとの取引関係において、また社内においても部門間や時には上司・部下の関係においても、様々な駆け引きをしながらお互いの利害調整を行なっています。一般的な心理としては、特に相手が相当気心知れた人でない限り、どうしても「相手に出し抜かれるのではないか」という心理的プレッシャーが働くものです。
ゲーム理論で有名な<囚人のジレンマ>においては、本来お互いが協調しあえば最大利得を得られるものの、相手の裏切りが怖くて結局多くの場合、落ち着く先は「若干のLOSE-LOSE」となることが知られています。
私たちの取引関係や人間関係は、1回限りというよりも、継続的に続くものです。ではそのような場合、どのようなスタンスが最も利得が多くなるのでしょう?
ミシガン大学の政治学・公共政策専門、ロバート・アクセルロッド教授は、ゲーム理論の一つ<繰り返し型の囚人のジレンマ>(詳細の説明は割愛しますが、コミュニケーションの駆け引きを繰り返し続けるゲームだと思って頂ければ概ね間違っていません)に関して様々な分野の研究者からゲーム戦略を募集し、コンピュータープログラムとして総当たり対戦の実験を行いました。
「必ず協調する戦略」「必ず裏切る戦略」、その間で取れる様々な協調と裏切りの比率を設定した戦略、果ては「でたらめ(ランダム)戦略」まで。これらが総当たりで攻守交替の戦いを続けるゲームです。
結果、最も単純な戦略である「しっぺ返し戦略(tit for tat)」が優勝し、打倒「しっぺ返し」を期して行われた第2回実験でも、様々な「しっぺ返し戦略の応用編」バージョンが登場する中、「最もシンプルなしっぺ返し戦略」が優勝したのです。
「最もシンプルなしっぺ返し戦略」とは、まずは相手に協調し、その後は必ず、相手の行為と同じ行為を返す、というものです。つまり、相手が協調してきたらこちらも協調で返す。相手が裏切ってきたら、こちらも裏切りで返すのです。このしごく単純な戦略プログラムが、一定回数以上の中期戦では必ず勝利を収めたとのこと。
ここから人間関係での戦略としては「基本的に協調・同調するが、相手が裏切ってきた時はやり返す」しっぺ返し戦略が最強の戦略であるという「しっぺ返しの法則」が提唱されました。
アクセルロッド教授はこのことをして、「高得点をあげた参加者と低い得点の参加者とを比べると、たった一つの性質が運命の分かれ道となっていた。それは<上品さ(nice)>、すなわち自分からは決して裏切らないという性質である」と言っています。
なかなか示唆深い話ではないでしょうか。ビジネスライクに見ても、「上品な人」「いい人」であることが得をするのです。
羨まない、裏切らない、策に溺れない人が勝つ
アクセルロッド教授は自著『つきあい方の科学』の中で、しっぺ返し戦略の成功から学べる実生活での4つの教訓を挙げています。
1:目先の相手を羨まないこと
2:自分の方から先に裏切らないこと
3:相手の出方が協調であれ裏切りであれ、その通り相手にお返しをすること
4:策に溺れないこと
考えてみれば、実生活での関係のほとんどはゼロサムゲームではありませんよね。相手の駒を奪い取ってこちらの駒にするというよりも、共に成功する、あるいは相手が失敗することはこちらも上手く行かなくなる。お互いが協調、協同することで新たな付加価値を生み出していく行為が、どの仕事でも、あるいはプライベートでの活動や関係性においても大半を占めるのが、いまに生きる私たちの世界です。
しっぺ返し戦略が選手権で優勝したのは、他のプレーヤーを打ち負かすことではなく、お互いの利益を最大化するための行動を相手から引き出すことによってでした。相手があげている利益を羨んだり妬んだりして奪い取ろうとするよりも、ただただ自分がよい行いをしているかどうか、それだけを気にかけることが必要なのです。
仕事でもプライベートでも「常にWIN-WINの関係を築くことが重要だ」と言われますが、その際、まず自分から先に行動することが大切です。
自分の意思はあいまいにしておいて、相手が協力的かどうかを判断できるまで待っていることはチャンスを逃してしまうでしょう。相手が信頼できるかどうかを分析して評価するのではなく、こちらがまず先に信頼するという意思が大事です。
時に「許す」ことも大切。いい人戦略の強さ
最もシンプルなしっぺ返し戦略が教えてくれることは、協調であれ裏切りであれ、そっくり相手に返さなければダメだということ。もし相手に裏切られたら、黙ったままにしないことも必要なのです。
先の<繰り返し型の囚人のジレンマ>でのシミュレーションでは、自分から先に裏切ると自分のポイントを減らすことになりましたが、仕返しは得点を上げる結果につながりました。
細かい戦略の結果などにご興味がある方は、ぜひアクセルロッド教授の『つきあい方の科学』(ミネルバ書房)をお読み頂ければと思いますが(ちょっと学術的な本で読みにくいかもしれません)、興味深いのは、様々にロジックを組み洗練させた技を繰り出してみたプレーヤーたちが、ことごとくもっともシンプルなしっぺ返し戦略に敗れ去っているということ。
策を弄するよりも、シンプルが勝つのです。
私たちは、常にいい人であることが必要ですが、「やられたらやり返す」のです。これをしないと、ただ何も考えずにいい人を演じ続けているだけになり、結果として長期的な利益を損なうことになってしまいます。
追加でひとつだけ、この最もシンプルなしっぺ返し戦略には落とし穴があります。それは、相手がずっと裏切りを続けてきたとき。
この戦略では相手が裏切っている限り、こちらも裏切り返すことになります。これが永遠に続くと、裏切りの泥沼スパイラルに入ってしまう。これはお互いで撃沈していくパターンとなります。
そのようなときのために、ひとつだけ追加プログラムを加える必要がある。それは、「相手が裏切り続けている間、こちらはときおり協調する」です。アクセルロッド教授は、これを「許す」戦略と読んでいます。言い得て妙ですね。
これを入れるとこの泥沼スパイラルから抜け出し、結果としてやはり中長期にて勝利を収めるのはシンプルなしっぺ返し戦略となるそうです。
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結論、「半沢直樹2」は非常に正しいことを言っていたのです。「施されたら、施し返す。やられたら、やり返す」。ぜひ、上司の皆さんの社長を目指す方程式としてご記憶・活用ください。
ただし、いずれも同じだけにすること。くれぐれも10倍返し、1000倍返しはしてはいけませんよ!
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※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
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