2020/12/18
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第133回
ポストコロナ時代に求められる「本質力」のヒントが満載。/『食卓の経営塾』
- ビジネススキル
- 組織
- 経営
- ハーパーコリンズ・ジャパン 一般書籍編集部シニア・エディトリアル・マネジャー 小野寺 志穂氏
成功する経営者は皆、多読家。成功している経営者が注目している、読んでいる書籍をご紹介してまいります。
今回は、『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』。本書の編集を手掛けられた、ハーパーコリンズ・ジャパンの小野寺志穂氏に見どころを伺いました。
「事業は食と同じ。電子レンジで急速に温めるより、オーブンでじっくり熱したほうが美味しさが持続する」
帯に引用したこの言葉を筆頭に、本書は食のセレクトショップ「DEAN & DELUCA」を日本で率いる企業家、横川正紀さんのユニークな仕事観にあふれている。
DEAN & DELUCAといえば、レストランのような美味しさをお惣菜で味わう「中食」の文化を日本に浸透させた立役者的存在。2020年4月にアメリカの法人が破産申請したのをよそに、日本では2003年の上陸以来独自に進化し続け、2016年には永久ライセンス使用権を取得。いまでは全国50店舗以上にまで成長し、まさに「冷めない」ブランドとして人気を博している。大ヒットしたロゴ入りのトートバッグを電車や街で目にしたことのある方も多いのではないだろうか。
しかしながら、上陸当時の認知度はわずか0.1%以下。なかでも新幹線駅ができた当初、品川駅港南口の駅ビル「アトレ」にオープンした旗艦店は全く商品が売れず、2億円かけた鳴り物入りの店舗を、たった半年で全面改装するはめになった。
ニューヨークの店そっくりに海外のしゃれた食材や英語のポップで美しく店内を整えたはいいが、お客さんが来てはくれてもさっぱり買ってくれない。本書にはその時のエピソードが赤裸々に語られているのだが、後のない崖っぷちの状況で横川さんがとった行動が後の運命を変えることになる。
それはDEAN & DELUCAの創業者のひとり、デルーカさんをニューヨークまで訪ねるというもの。「本家のような店構え、こだわりでそれなりに素敵なお店をつくり、お客さんも来てくださる。でもなぜか肝心の商品が売れない」と、思いをぶつけたのだ。
その時デルーカさんから返ってきたのは、「君の店にソバはあるのかい?」という予想外の言葉だった。イタリア系アメリカ人のデルーカさんは、父親の故郷で味わった美味しいチーズを紹介したいと考えて1970年代に事業をスタート。そしてパートナーのディーンさんと共にチーズやイタリアだけでなく、世界中の豊かな食文化をアメリカ人に知ってほしいと願って、DEAN & DELUCAを開いた。
「君が参考にすべきは、僕の原点である、最初のチーズストアじゃないのか?」そう言われた横川さんは、自分たちがニューヨーク店のかっこよさや表層しかなぞっていなかったこと、本当に学ぶべきは店構えやマーケティングではなく、「その食材がどうつくられ、地元でどう食されているか」にこそあると気づかされた。
「本質を伝えることができれば、君の店はきっとうまくいくよ」デルーカ...
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