2020/10/29
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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
第87回
コロナ氷河期は青黒さとマネジメント力を鍛えて乗り越えよ
- キャリア
- ビジネススキル
- 前川 孝雄氏 株式会社 FeelWorks社長・株式会社働きがい創造研究所会長・青山学院大学兼任講師
◆高い志を遂げるため、「青黒く」立ち回る
秀でた青黒さとマネジメント力を発揮したロールモデルの一人に、現在、北海道知事を務める鈴木直道さんがいます。私は中央大学の阿部正浩教授との共著『一生モノの 学ぶ技術・働く技術』(有斐閣)の取材で、直接話す機会を得たのです。鈴木さんは、2011年4月に、30歳1カ月という当時全国最年少の若さで北海道夕張市長に就任しました。氏は1981年生まれの就職氷河世代で、1999年に東京都庁に入庁。2008年の27歳の時に、353億円の赤字を抱えて2006年に財政破綻し、日本で唯一の財政再建団体(当時)の指定を受けた地方自治体の夕張市に、東京都の職員として応援派遣されました。任期は1年です。
夕張市の財政再建は相当に困難で、市民も自分たちが危機的状況にあると認識しつつも、市政運営の詳細や具体的な解決の道筋は分かりません。一方、行政側は市政の現状や解決の糸口は見えても、それを市民に正しく伝え協力を得る自信がもてず、膠着状態でした。
そこで、鈴木さんは出向者という中立の立場を生かし、プライベートの時間に市民にアンケート調査を行い、市民の抱える悩みや問題点を浮き彫りにしながら一緒に解決方法を考える手法で、市民と行政の橋渡し役に撤しました。
しかし、市民の声の調査がまとまる頃には、派遣の任期満了が近づきます。1年でやっと各地のキーマンとも顔見知りになったのに、ここで後任者に交代すればまた振り出しです。その繰り返しでは夕張市の財政健全化など果たせるはずがない。そう考えた鈴木さんは、「あと一年あれば財政再建計画を作れる」と任期延長を上司に要望しますが、ルールだからと聞き入れられません。
青臭い志だけなら、ここで諦めるところです。しかし鈴木さんは、なんと当時の東京都副知事の猪瀬直樹氏に直接掛け合ったのです。しかも彼の優れたところは、上席や人事担当者など上層部のキーパーソンの顔を立てて、「どこかのタイミングで相談したい」と各所に筋を通したことです。
すると「若手懇親会で現場の声を聞く時間があり、そこでなら」と、配慮の機会を得られたのです。まさに青臭い志を持ちながら、それを実現する腹黒さを兼ね備えた「青黒い」立ち回りです。そして、副知事に直接自分の思いを伝え、快諾を得たのです。
こうして夕張市でもう1年間働き、市民とのネットワークと信頼関係を築き、さらに「市長選に出馬を」と押され、多くの市民の支持で当選まで果たします。
ただ市長とはいえ、財政破綻当時の夕張市長の給料は月額手取り20万円以下。鈴木さんは、東京都職員時代から年収が200万円近く下がる覚悟でした。その時の心境をメディアにこう語っています。「借金の問題は若い世代の失敗ではないかもしれません。でもわれわれは前の世代がわれわれに残してくれた利益を全て利用してもいます。われわれの世代は日本の将来に対する責任感に欠けていると思います。誰かがその問題を解決しなければならないのです」この圧倒的な当事者意識からくるリーダーシップに市民や市職員は感銘し、ついていこうとしたのではないでしょうか。
◆修羅場をリーダーシップを鍛える好機に変えよ
権限や指示命令によってではなく、市民や同僚をかけがえのない仲間として、より良いゴールに向かって士気を高めることが真のリーダーシップです。リーダーには、メンバーの「体」を強制して動かすのではなく、「心」を共感によって動かすことが求められるのです。鈴木さんのエピソードはスケールの大きい話と感じるかもしれませんが、ビジネスリーダーとして飛躍するには、自分のフィールドでこうした青黒さとマネジメント力を磨き、厳しい今を乗り越え、力をつけていくべきでしょう。
100年に一度の厄災であるコロナ禍は歓迎すべき事態ではありませんが、現実から目をそむけるわけにはいきません。むしろこの修羅場に挑み乗り越えることで、本物のリーダーとなれる好機だと捉えるくらいのしたたかさを持ちたいものです。コロナ氷河期の諸課題とこれを生き抜く力を詳しく知るには、ぜひ拙著『コロナ氷河期』を参照してください。
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■書籍情報
『コロナ氷河期 終わりなき凍りついた世界を生き抜くために』
著者:前川孝雄
出版社:扶桑社
価格:1,540円(税込)
※この記事は、アイティメディア株式会社の許諾を得て
「ITmediaエグゼクティブ『ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術』」
の連載から転載したものです。無断転載を禁じます。
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