2020/02/20
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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
第62回
僕たちはどんな幸福も「慣れっこ」になってしまう
- キャリア
- ビジネススキル
- 金森 重樹氏 ビジネスプロデューサー
ここで一つ覚えてほしい言葉が「地位財」と「非地位財」です。これは経済学者のロバート・H・フランクがつくりだした言葉です。
地位財は簡単に説明すると「周囲との比較によって満足を得られるもの」です。例えば、あなたの周囲の人々がみんな自転車で移動しているのに自分だけ原付自転車を持っていれば満足度は高くなりますが、ほかの人たちがランドクルーザーを乗り回しているのに自分だけ原付自転車に乗っている状況では満足度が低くなります。
フランクによれば、このように周囲と比較してしまう僕たちの習性は、環境への適応を巡る進化のたまものであるといいます。僕たちの祖先は子孫を残すため、与えられた環境の中でもっとも適した行動を探し求めます。
ただ、その環境における最適な行動が具体的にどんなものかを知ることはできません。そこで、周囲を見回して一番うまくやっている者を見つけ、「追いつき追い越せ」の心理を発達させてきたというわけです。
僕たちはついつい、こうした習性に従って「地位財」を追求してしまいがちですが、客観的に言って、それで幸福を得られることはあり得ません。それではただ回し車のなかのネズミになり同じ幸福レベルに戻るだけです。ここから、僕たちが追求するべきは「非地位財」であるということが分かるでしょう。
では周囲との比較で評価しない「非地位財」とはどんなものでしょうか。それは「健康」「自主性」「社会への帰属意識」「良質な環境」などです(フランクの理論では「結婚」を非地位的なものととらえますが、ステータスシンボルとして美しい妻あるいは夫を求めることもあるほか、「結婚できる人とできない人の格差」などもあり、地位的な側面があります)。
例えば会社の同僚の1人が企業社会での競争に見切りをつけ、片田舎で貧しいながらも悠々自適な暮らしを始めたとしたら、僕たちはちょっと見下してしまうでしょう。しかし、非地位財である「自主性」「自由」などの側面で見れば、彼自身はかつての生活よりもずっと幸福を感じるはずです(そのためには地位的なものを求めたいという欲求を克服しなければなりませんが)。
僕は2019年に『【増補完全版】まさか!の高脂質食ダイエット』(グラント・ピーターセン著)という翻訳本の監修もしましたが、その行動原理も「健康」という非地位財的な価値を広めたいという思いが根底にあります。
僕は歯科医院の経営再建に携わる中で、口腔内環境の変化を見るために糖質(炭水化物など)を摂らない生活(いわゆる旧石器時代の食生活)を始め、その結果として体重の減少と健康が回復することを、身を以て実感しました。
そこからさまざまな論文を読みあさった結果、製薬会社、食品メーカー、各種の学会、医師会などの利権によって捻じ曲げられた情報であふれかえっている間違った健康法の現状を知り、それを変えるために行動しています。
僕はいま、健康に関する世の中の常識を覆し、皆が真の健康になれる方法を普及することに幸福を感じているから、本書『幸福の意外な正体』の監修も含め、twitterなどで情報発信活動をしているわけです。
昔から道歌で「思うこと 一つ叶えばまた二つ 三つ四つ五つ 六つかし(難し)の世や」と歌われていますが、人は欲しいものが手に入るとそれだけでは満足せずに、また他のものが欲しくなります。
繰り返しになりますが、「地位財」の獲得を目指して行動していても、それは延々終わりがありません。「地位財」の欲求を個人が意図的にコントロールすることは簡単ではありませんが、いまの自分の行動原理が「地位財」に基づいたものなのか、そしてどんな「地位財」に自分が固執しているのかということを客観的に把握することが、幸福を手に入れるため必要な最初のステップとなるのではないでしょうか。
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■書籍情報
『幸福の意外な正体』
著者:ダニエル・ネトル
出版社:きずな出版
価格:2,420円(税込)
※この記事は、アイティメディア株式会社の許諾を得て
「ITmediaエグゼクティブ『ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術』」
の連載から転載したものです。無断転載を禁じます。
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