2019/11/14
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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
第55回
売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する
- キャリア
- ビジネススキル
- 永井 孝尚氏 マーケティング戦略コンサルタント、ウォンツアンドバリュー株式会社 代表
まずは販売至上主義から脱却し、マーケティング発想に切り替えることです。そして「売ってはいけない」のがどんな状況なのか、その理由が何なのかが分かれば、売れて儲かるようになります。
◆本書のハイライトを紹介
「他社も似た商品やサービスを売っている。だから差別化は無理」と言うビジネスパーソンは多くいます。しかし世の中には、同じ商品を売っているのに、どんどん売れる会社もあります。彼らは商品を売っていないのです。例えばどの保険代理店も同じ保険商品を売っています。保険代理店は商品では差別化できません。さらに保険のお客は、普段は保険のことはほとんど考えていません。
そんな業界で、抜群の業績を上げている保険代理店があります。私がこの保険代理店の社長に話を聞いた時のこと。冒頭で、こう言われました。
「特別なことは、何もしていません。当たり前のことをしているんですが……」
この保険代理店はお客と保険の話は一切しません。運送業の経営者と出会うとこんな話をします。
「運送業の労務管理って、時間管理じゃないですよね」
「そうそう。そこで困っているんですよ……」
運送会社は、労務管理が後回しになっているところが多いのが現実。通常、労務管理は「まずタイムカードで時間管理」となりがちです。でも運転手の仕事はA地点からB地点に荷物を運ぶこと。時間管理では労務管理はできません。だから、運送会社の経営者は困っています。
しかし、この保険代理店は解決策を持っているわけではありません。その代わりに社労士を招き、経営者と一緒に勉強会を行い、悩みを解決していきます。さらに会社は会計・法律などさまざまな問題を抱えているので、司法書士・会計士・弁護士なども招き勉強会を行います。経営者は自社の悩みが解決できて助かります。実は士業の先生方は自分で営業できないので、助かっています。この保険代理店は、顧客企業の社内ルール作りも手伝っています。
そして、さまざまな業務で保険が絡みます。そのうちこんな会話が始まります。
「当社はこんな保険に入っているんですけど……」
「この状況なら、こっちの保険商品がお勧めですよ」
この保険代理店は、すでにその会社の課題や経営状況を熟知し、保険商品の知識もあります。その会社に最適な保険も分かります。しかし、この段階でも保険を売りません。
「担当の保険代理店さんに、保険の変更をお願いするといいですよ」
ここでほとんどの経営者は、こう尋ねる。
「貴社も、この保険を扱っているんですよね」
「ええ、そうですよ」
保険代理店はどこも同じ商品を売れるので、この保険代理店も同じ商品を売ってます。
「また確認するのも手間ですから……貴社に保険を切り替えます」
どこも同じ保険商品を扱っているから、自分の課題を理解し、最適な商品を選び、提案してくれるほうがいい。確かに「考えてみれば、当たり前のこと」をやっています。どこも同じ商品を扱う保険代理店だからこそ、顧客の課題理解が出発点。似た商品を売っているからこそ、差別化できるのです。
売る方法は、発想を変えればいくらでもあります。それこそお客に売ってもらう方法もあるのです。まず考えるべきは、ターゲットの顧客を見極めて、その課題を理解すること。そして解決策をどのように提供するかを、それまでの常識にとらわれずに考えることなのです。
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■書籍情報
『売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する』
著者:永井 孝尚
出版社:PHP研究所
価格:990円(税込)
※この記事は、アイティメディア株式会社の許諾を得て
「ITmediaエグゼクティブ『ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術』」
の連載から転載したものです。無断転載を禁じます。
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