2021/10/12
1/1ページ
社長を目指す方程式
第75回
「頼み上手・頼み下手」はココで決まる! 両者の特徴を徹底解説
- キャリア
- ビジネススキル
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
60秒で簡単無料登録!レギュラーメンバー登録はこちら >
今回の社長を目指す法則・方程式:E・トーリー・ヒギンズ「有効性欲求」 |
そのうえで今回は、相手にどのように頼むのが効果的なのかについて深掘りしてみたいと思います。頼み上手な人の「良い頼み方」と、お願い下手な人の「ダメな頼み方」を比較してみましょう。
これがデキる人の「良い頼み方」だ!
そもそも、人が助けを求められたとき「渋々手を貸す」あるいは「まったく助けようとしない」場合とはどのようなときなのか。逆に、どういうときに「親身になって助けよう」と思えるのでしょうか。そのカギは<助けなければならない>と<助けたい>の違いにあります。言い換えれば、強いられるか、自発的・自己選択的にやるかの違いともいえます。人は誰しも、強要されたりコントロールされたりするのが嫌で、自ら取り組めることが好きな生き物です。ここがすべてのポイントとなりますので、まずは覚えていただければと思います。
良い頼み方は、相手の「内発的動機」に働きかけるかたちを取ります。内発的動機とは、自分の内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態を指します。要するに、自発的に助けたいと思うような状況をつくる頼み方をするのです。
面白い心理学の実験結果があります。それは、無報酬で一所懸命にやっていたことに、報酬を支払うようになるとモチベーションがダウンしてしまうというものです。有名なところでは、学生たちに休憩時間に知恵の輪を解かせると無心に解き続けたのに、1つ解けるごとに何ドルという報酬を出すことにしたところ、最初は一所懸命にやるものの、徐々にそれが苦痛に感じるようになってしまい、最終的に止めてしまうという結果になったのです。
一見、報酬を支払うことは良い動機付けになると思われますが、こと善意を前提とするお願いにおいては、報酬を出すことは逆効果なのです。なぜなら、報酬を支払うと、受け取る側はそれにより相手にコントロールされていると感じるからです。
コントロールされていると感じさせるものは、報酬だけではありません。期限やプレッシャー、あるいは脅迫なども同じ効果をもたらします。これらによって私たちは、その依頼について自分の意思で自由に行動していると感じにくくなるのです。
良い頼み方は、「返報性」も折り込みます。返報性とは、人の心理の中で善意を尽くされたらお返しをしなければならないと思う心理のこと。私たちは、誰かに良いことをしてもらうと、その相手に「感謝の気持ち」と「義理や借りの感覚」の二つの心理が起きます。
スタンフォード大学ビジネススクールのフランク・フリン教授は、返報性には「個人的」「関係的」「集団的」の3つがあると言います。
1.個人的返報性
個別的にバーターが成立するような返報性を指します。「助けてもらったので、お返しに助ける」はこれに該当します。
2.関係的返報性
家族や恋人、友人など親密な関係にある相手の間に生じるものです。明確な貸し借りが発生していなくても、「何かあったときは助けてもらえるはずだ」という前提にあります。
3.集団的返報性
内集団での一般的な助け合いを指します。同じ会社・出身校・出身地・国籍の人たちには、仲間だという意識から、無条件に助けようという気持ちがはたらきます。
こうした返報性が織り込まれた依頼について、人は「ぜひ助けたい!」という心理が強くはたらきます。特に<仲間を助ける>気持ちは読者の皆さんも理屈抜きに想像できる、自然と湧き上がってくる感情かと思います。
これでは通らない…「ダメな頼み方」
では一方で、なかなか受け入れてもらえない頼み方とはどのようなものでしょう?コロンビア大学ビジネススクール・モチベーションサイエンスセンター副署長のハイディ・グラント(『やってのける』『だれもわかってくれない』著者)によれば、ダメな頼み方には「共感に頼りすぎる」「やたらと謝る」「言い訳をする」「頼み事のメリットを強調する」「その頼み事は些細なものだとアピールする」「借りがあることを思い出させる」などが挙げられるとのことです。1つずつ見ていきましょう。
○共感の“押し付け”は忌避される
共感に頼ることは、先に見た内発的動機や返報性に働きかける部分があり、悪手ではありません。しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。度がすぎると押し付けに感じられ、また過剰な共感(の押し付け)は偽善に感じられ忌避されます。ボランティアや動物愛護などで、あまりに急進的な活動をする団体をみると、逆に危険なものと感じて人々が遠ざかってしまうということが、この一例と言えそうです。
○謝るより「感謝」を伝える
日本人には多く見られますが、頼み事をする際に、ひたすら謝る人がいます。これも本人の気持ちとは裏腹に、全くの逆効果。謝られることは、相手からしてよそよそしさを強調することになり、お互いの間に距離が生まれ、一体感が損なわれるのです。助けを求める際には謝るのではなく、感謝する。これが鉄則です。
○「言い訳」して得なし
言い訳も、頼まれた人の気持ちを萎えさせ、助けることの充実感を損なうアクションになります。「普段はお願いしたりしないのだけど」「本当はこんな頼み事をしたいわけではないんだ」。こんなことを言いながら頼まれた側の気持ちを、少しでもイメージできれば、相手がどんな気分になるかすぐ分かることですよね。
○相手の気持ちの“誘導”はご法度
「頼み事のメリットを強調する」「その頼み事は些細なものだとアピールする」「借りがあることを思い出させる」。これらに共通するのは、頼む人が、なんとか頼まれる側の人の気持ちを前向きなものにしようとするアクションだということです。「助けてくれると良いことがあるよ」「それほどの負荷はかからないよ」「あなたには貸しがあるよ」。これらのいずれも、良い頼み方で前述した「自発性・内発的動機」からのアクションとは真逆の方向になっていることが、お分かりいただけることと思います。
どうでしょう、本人はなんとか助けてもらおうという気持ちの一心でやっていることですが、相手の気持ちは遠ざかるばかり。おそらく私たちの誰もが、これらのうちのいくつかを「やらかしてしまった」経験を持っていると思います。ここで理屈を理解し、落とし穴から逃げましょう。
巧い頼み方の心理学的ステップとテクニック
前回・今回とお届けした、頼み方についての話。皆さんに今日から実践いただくために、巧い頼み方の心理学的ステップとテクニックがありますので、ご紹介しておきましょう。まず、誰かに助けてもらうために必要なステップ。これは4つあると言われます。
ステップ1;「相手に気付かせる」
ステップ2:「助けを求めていると相手に確信させる」
ステップ3:「助ける側がなぜ今回助けなければならないのかを理解する」
ステップ4:「助ける人が、必要な助けを提供できる状態でなければならない」
きちんと頼む、明確に依頼する。当たり前のことですが、案外これがしっかりできている人は少ないかもしれません。もごもごしがちですが、前回の記事でお伝えした通り「相手はこちらが思っているよりもはるかに助けてくれる場合の方が多い」ので、堂々と頼みましょう。
実際に助けを求めるときには「仲間意識」「自尊心」「有効性」の3つの<人を動かす力>を用いて適切な頼み方をすることが肝要です。
「同じチーム・同じ目標を追っている」人に依頼し、相手に「自分は親切な人である」と思わせるように頼み、「自分がしたことで何かが変わった、影響を与えた」という手応えを感じてもらえるようなフィードバックを行うのです。
人間の行動の動機づけに関する研究で、大きな貢献を果たしている心理学者、E・トーリー・ヒギンズは、有効性を感じたいという欲求(自分の行動が結果に影響を与え、目標を達成したことを把握すること)こそが、人を積極的に行動に向かわせ、人生を有意義なものにするのだと主張しています。これを満たすフィードバックをしっかり行うことで、あなたが次に何かを依頼するときにも、その人は必ず力になってくれることでしょう。
* * *
社長になる上司は、気持ちよく人に仕事を頼み、動かす力を持つ人です。依頼における「効果的アプローチ」と「落とし穴」とをしっかり把握しておきながら、日々のマネジメントにおいて、大いに様々な人たちからの助けを受けてビジネスを進めましょう。
経営者JPのコンサルタントにキャリアの相談をする >
※担当希望コンサルタントがいる場合は連絡事項欄にご記入ください
※現状ご経験に合う案件情報が無い場合には、案件情報が入り次第のご面談とさせて頂く場合がありますこと、あらかじめご了承ください※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
無断転載を禁じます。
Copyright (c) 2021 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.