2023/05/15
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スペシャルコラムドラッカー再論
第366回
人事管理論と人間関係論。その、出発点からの違いと功罪。
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
HRテック流行りだ。人事管理においてもデータ分析、データマネジメントを活用して科学的アプローチで管理すべきという論が最新のものとして取り上げられる機会がある。
ドラッカーは、既に70年前に、「人間組織のマネジメントとして通用しているもののかなりの部分がきわめて機械論的であって、手紙(※いまならメール?)で教えられるようなものになっている」とコメントしている。
しかしこれが「不毛」なものである場合がほとんどだとドラッカーは指摘する。
いわゆる人事管理論が不毛なものとなっている主たる原因として、ドラッカーは3つの間違ったコンセプトを挙げている。
「第一に、人事管理論は、人が働きたがらないという考えを前提としている。」(『現代の経営』、1954年)
米国の心理学者、経営学者であったダグラス・マグレガー(1906年 –
1964年)が指摘したように、人事管理論は仕事を仕事以外の満足を得るために我慢しなければならない一種の罰であると見る。したがって、当然のことながら仕事以外の満足に重点を置くようになる。
「第二に、人事管理論は、人と仕事のマネジメントを、マネジメントの仕事ではなく専門職の仕事にしている。これこそスタッフ部門としての人事部やスタッフのコンセプトに伴う混乱の典型例である。」(『現代の経営』)
確かに、あらゆる企業の人事部において、人のマネジメントについての現業の経営管理者を対象とする教育の必要性が話題になっている。
しかし現実には、人事部の予算、人員、労力の90%は、人事部が起案し、企画し、実施するプログラムに使われているとドラッカーは指摘している。
人事部にとって最も重要な仕事は、現業の経営管理者に助言することと、チームとしての組織の安定性および士気を診断することの2つだという主張がありながら、実際のところは人事部自信が組織し運営するための諸々のプログラム運営に主眼が置かれるというようなことが、昔から今に至るまで平気でまかり通っている。
「第三に、人事管理論は、一般に人事の仕事を消火活動の仕事にしている。すなわち、人事の仕事を本来円滑であるべき生産活動を妨げる問題や頭痛の種を処理すべきものと見る。」(『現代の経営』)
そもそも人事管理論は、その出現の当初からそのような傾向を持つという前提のもとに誕生したとドラッカーは述べている。
実際問題、人事部長・人事マネジャーの多くが、ほとんど意識せずに、社内紛争の処理を仕事にしていると言ってよいかもしれない。皆さんの会...
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