2023/03/06
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スペシャルコラムドラッカー再論
第356回
スタートアップや中小企業が抱えるマネジメント構造上の問題。
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
前回見た通り、企業の規模ごとにそれぞれに応じたマネジメントの構造が必要であることをドラッカーは説いている。そして実際のところ、それぞれの規模にそれぞれの問題と弱みがあるとドラッカー指摘もしている。
「小企業や中企業に共通する問題は、規模が小さすぎるために必要なマネジメントをもつことができないことである。それらの企業のトップマネジメントは、大企業や巨大企業のそれに比べて多芸であることが求められる。しかも、大企業のそれと同じように有能であることを求められる。」(『現代の経営』、1954年)
実際問題、スタートアップや中小企業のトップマネジメントは万能なマルチプレイヤーであることが求められ、しかも大企業のトップマネジメントのように機能別部門の専門職からの支援を得ることができない。
それなのに大企業に比べて報酬水準は低くなることが多い。(中小企業でもカテゴリーキラー、カテゴリートップとなっているような企業では、大企業のトップマネジメントよりも高い報酬を得ているというデータもある。)
「質量ともに必要なだけの経営管理者を自ら育成することは容易ではない。そして何にもまして、大企業と異なり、経営管理者の地位にある者に対し、十分な挑戦の機会と仕事の大きさを与えられない。したがって中企業に固有の問題は、経営管理者に対する要求と経営管理者の能力のギャップである。」(『現代の経営』)
それはほとんどの場合、中企業である限り埋めることの難しいギャップだとドラッカーは言う。
「小企業、中企業に典型的なもう一つの問題は、多くの場合、同族であることに由来する。同族企業では、上席のマネジメントの地位はしばしば同族によって占められる。」(『現代の経営』)
能力のない者に同族だからと地位を与えるなど言語道断だが、そこまでいかなくとも同族であることで雇用し一定の役割を<悪意なく>与えている同族企業は少なくない。これでは一族以外の有能で意欲ある社員がやる気を失うのは当然だ。
「そして最後に、小企業や中企業のトップマネジメントには、視界の狭さや外部との接触の少なさというハンデがある。」(『現代の経営』)
結果として技術的にも経営的にも知識や能力が時代遅れとなり、事業や企業そのものの成否を左右するような社会的変化に気づかないことがある。事業存続のために慎重な分析が要求されているときに、思考と計画の必要性を理解できず、本能と勘でマネジメントしようとする、とドラッカーは指摘する。
このことについては、特にスタートアップ起業家や...
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