2020/07/21
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社長を目指す方程式
第44回
コロナ禍の今こそ自己テーマを明確にして、日々の仕事をコントロールせよ
- キャリア
- ビジネススキル
- マネジメント
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
今回の社長を目指す法則・方程式: ブライアン・リトル教授「パーソナルプロジェクト分析(PPA)」 |
新型コロナはこの原稿を執筆している7月第2週末時点で東京都の新規感染者数が連日200名を超え、気がつけば4月のピーク時を上回る拡がりを見せ始めており、私たちの新型コロナとの戦いも早半年近くとなりました。
ウィズコロナとして感染拡大防止と共に経済活動を可能な限りビフォーコロナまで戻そうという努力の元、読者の上司各位も日々の足元の対応に追われ、一方では「これがいったい、いつまで続くのだろう」「このままで大丈夫なのだろうか…」というような漠とした先の不安を感じている方も少なくないでしょう。
誰もこの新型コロナ禍の動静、行く末、どこまで日本および世界経済や社会への影響を与え続けるのか分かりません。いま出来うることは、「自分の考えや行動で差配できること」に集中し、希望を捨てずに進むことです。不透明感漂ういまだからこそ腰を据えて、「ここから自分は何をテーマに進むのか」、はっきり、スッキリさせてみませんか?
◆自分の重要プロジェクトを自己採点であぶり出す
ベストセラー『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』の著者でもあるケンブリッジ大学のブライアン・リトル教授による、「パーソナルプロジェクト分析(PPA)」という価値観明確化の手法があります。パーソナリティ心理学の超大御所でもあるリトル教授が教えてくれるのは、人生の質を高めるためのタスク管理の方法。早速ですが、皆さんもぜひワークしてみてください。
まず、「自分が取り組んでいるプロジェクト」を思いつくままにリストアップします。「プロジェクト」って、なに?と思われるかもしれませんが、要するに皆さんが取り組みたいと思っていることでOK。「ダイエット」「1日1万歩歩く」「月に5冊、読書する」「週に3回は家族と夕食を共にする」などなど。人生のプロジェクトでもぜひ取り組んでみて頂ければと思いますが(リトル教授の実験はこちらのスタンスです)、今回、仕事とキャリアがテーマの場ですので、ぜひ、仕事に関することに絞ってトライしてみて頂けますでしょうか。
「**での人脈を**人にする」「**に関する知識を年内中につける」「半期の売上目標を120%達成する」「部下育成で1on1を週一で実施する」etc.、考えすぎず、どんどんと。リトル教授は、大概、意識しているもの・意識したいものの総数が10〜15プロジェクトくらいになるといいます。
書き出せましたか?そうしましたら、そのリストアップしたプロジェクトの中から、自分が「これは重要だ!」と思うものを10個以内で選択してください。その10(以内)のプロジェクトに対して、以下の各項目について10点満点中何点かで、それぞれについて点数をつけましょう。
重要性:そのプロジェクトが自分にとってどれだけ重要かどうか
困難さ:そのプロジェクトを実行する際の難しさ
透明性:友人や家族がそのプロジェクトの進み具合を知れる、または理解できるかどうか
管理性:そのプロジェクトに対して、どれだけ「自分でコントロールできる」感覚があるか
責任:そのプロジェクトには社会的な責任があるかどうか
時間適正:そのプロジェクトをやるだけの十分な時間があるかどうか
成功率:そのプロジェクトを達成、または満足できるレベルまでこなせる確率は高いか
自己同一性:そのプロジェクトが、自分のアイデンティティに沿っていると感じられるかどうか
他者からの重要性:他人から見て、そのプロジェクトが重要と思われるかどうか
価値観の一致:そのプロジェクトが、自分の人生の価値観と合っているかどうか
進捗状況:いまの時点で、そのプロジェクトをどれだけ達成できているか
やりがい度:そのプロジェクトにやりがいが感じられるかどうか
没頭度:そのプロジェクトに夢中になれるかどうか
支持レベル:そのプロジェクトを達成するためにサポートが得られるかどうか(金銭的なサポートでもアドバイスでも何でもOK)
自律性:そのプロジェクトに対して、誰からの強制でもなく「自分の意思でやるのだ!」と感じているかどうか
採点できたら、プロジェクト毎に総得点を算出し、総得点上位5つのプロジェクトを選択してください。
その5つそれぞれに対して、
「このプロジェクトを含む、もっと長期的な、あるいはもっとスケールの大きなプロジェクトは何か?」
「そもそも自分は、なぜこのプロジェクトに取り組んでいるのか?」
と問うてみるのです。ちなみに私の場合の一例を挙げてみれば、
「幹部の皆さんの転職支援を行う」←「幹部の皆さんがライフステージにおいてその時々に活躍し続ける状況を提供したい」←「幹部の皆さんが常に活き活きと活躍し続けてくださることが、企業各社が良い事業活動を継続できる原動力となる」←「企業各社が活力ある事業活動を継続できることが、日本経済・社会を活力あり豊かなものとする源泉である。私自身がその一助となる事業を展開したい」
というような形になります。
リトル博士のリサーチによれば、だいたい5〜6段くらい進んだあたりで自分の根っこにある価値観に辿り着くケースが多いそうです。
◆自身の価値観・テーマに忠実に、日々の仕事や生活をコントロールする
この作業を通じて、自分の大切にしているもの、価値観、テーマがくっきり浮き上がってきます。どうでしょう、皆さんの価値観やテーマは明確になりましたか?
いったん自分自身の最上位の価値観を発見、確認できれば、あとはそれに従って仕事やキャリア、日々の生活をコントロールしていくだけです。
実はここがポイントで、「今回明らかになった、確認した自身の価値観・テーマに、常に忠実に行動する」ことを徹底するのです。時折、せっかく自分の価値観やテーマはしっかり把握できているのに、それに従わず、異なることにばかり時間やお金を使ってしまっている人がいらっしゃいます。これでは人生の目的を達成することは叶いません。
私たちの不安の素は、「自分の未来と現在が結び付けられない(未来像や目標・ゴールが見えない、イメージできない)」ことか、「自分の未来と現在を連結できていない(自分が進むべきと思っている道の方に歩むことができていない)」ことから発生するそうです。
購買心理や中毒症状における脳機能の働きの研究で有名なスタンフォード大学のブライアン・ナットソン教授は「未来との心理的距離が近い者ほど不安に強く、セルフコントロール能力も高い」という<自己連続性の高さ>の重要性を実験により明らかにしています。自己連続性の高い人ほど、未来の自分の身になって考えることができ、現在の決定が未来に及ぼす影響を実感できるのです。
自分の目指したい未来像と現在をくっきり結び付けられていることが、自分自身としても周囲から見ても、迷いなく明朗に仕事にも人生にも向き合い進む力を産みます。こういう時期だからこそ、自己テーマをくっきりさせ、混迷な環境の中にあっても快活に未来に進む上司となりましょう。
※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
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