TOP スペシャルコラムドラッカー再論 トップマネジメントの仕事とは、何か?

2016/08/01

1/1ページ

スペシャルコラムドラッカー再論

第37回

トップマネジメントの仕事とは、何か?

  • エグゼクティブ
  • マネジメント
定時株主総会も終わり、新年度の経営体制で走り始めた1ヵ月。早速、その中での課題やお悩みを伺う機会が少なくない。
「新体制は組閣したものの、◯◯事業に関しては適切な事業部長を配することができていないので採用を急ぎたい」「どうも新体制役員間のコミュニケーションがしっくりいっていない」「役員が役員としての仕事をしていない。部門代表のまま現場に張り付いていて、全社視点に欠ける」——。

そもそも、「トップマネジメントの仕事」とは、何だろう?それは、幹部の仕事とは異なるのだろうか?

「第一に、トップマネジメントには特有の仕事が存在することを教える。組織には、トップマネジメントの役割というべきものが数多くある。あらゆる組織において、法的な権限をもつがゆえにではなく、事業全体を見ることができ、事業全体を考えて意思決定を行うことができるゆえに、トップマネジメントがなすべき仕事がある。
第二に、トップマネジメントには独自の組織構造が必要であることを教える。トップマネジメントは他のいかなる組織とも異質であり、独特の組織構造を必要とする。
第三に、トップマネジメントには、独自の補佐機関、すなわち情報を供給すべき独自の機関が必要であることを教える。」(『マネジメント——課題、責任、実践』1973年)

ドラッカーは上記のように言う。

「職能別組織、チーム型組織、分権型組織、システム型組織のいずれにおいてであれ、トップマネジメント以外のマネジメントはすべて、一つの仕事に専念する。したがって、組織の基本単位はすべて、そのなすべき貢献によって規定される。ところが、トップマネジメントはそうではない。トップマネジメントの仕事は多元的である。その仕事の種類は一つではない。複数である。このことについて企業と公的サービス機関の間に違いはない」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

トップマネジメントは組織全体のミッションを決め、組織全体の規範・価値基準を定め、組織を作り上げ維持し、明日のための人材を育成し、渉外を行い、行事に参加し、そして重大な危機があれば自ら出動する、といった仕事がある。これだとてトップマネジメントの仕事のすべてではない。

「組織の成功と存続にとって決定的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行いうる仕事は何か」
「事業全体を見ることができ、今日と明日のニーズをバランスさせることができ、最終的な意思決定をなしうる者だけが行うことができるものは何か」

トップマネジメントの仕事は著しく組織化が困難な仕事だとドラッカーは力説する。
課題が起こるたびに(それは繰り返し起こる)解決に当たらなければならない。しかし、そのほとんどが継続的な性格の仕事ではない。「毎日9時から5時までの間、ずっと取り組んでいなければならないというものではない」(『マネジメント——課題、責任、実践』)のだ。

だからトップマネジメントは、健全な本能として、日々の仕事をもつことの必要性を感じ、得意とする職能別の仕事を行う。
「製造、販売、経理、エンジニアリング、品質管理のすべてに日常の仕事がある。実は、こうしてトップマネジメントの仕事がなおざりにされていく」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

難しい問題だ。ドラッカーは、トップマネジメントがトップマネジメントとしての仕事に注力するために、2つの原則を挙げている。

1)もしその仕事をトップ以外の誰かがなしうるとしたら、それはもやはトップマネジメントの仕事ではない
2)トップマネジメントのメンバーとなった者は、それまで担当していた職能別の仕事や現業の仕事からは手を引かなければならない

しかし、ドラッカーも、こう挙げておきながら、先の通りの現実から、トップマネジメントは必ずしもトップマネジメントの仕事のみに専念するのではなく現場の日々の仕事も担うことになるということを認めている。

もうひとつ、トップマネジメントには多様な能力が要求されるという事実もまた、トップマネジメントの仕事の難易度を上げる。

「分析、思考、比較考量、調整が必要である。同時に、迅速さと大胆さが必要である。抽象、コンセプト、計算が必要である。知覚、人間性、共感、人への敬意が必要である。一人で行うべき仕事がある。組織を代表する仕事がある。人とあうことを楽しみ、何もいわずに好印象を与えるべき能力まで必要とされる。
こうしてトップマネジメントの仕事は、少なくとも四種類の人間であることを要求する。「思考する人間」「行動する人間」「人間的な人間」「代表する人間」である。だが、これら4つの資質を併せ持つ者はあまりいない。」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

さて、ドラッカーはトップマネジメントはチームでなければならないと説く。その理由が、ここまで述べてきたトップマネジメント要求される仕事の特徴にあるのだ。

「トップマネジメントの役割が、なすべきこととしては常に存在していながら、仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、それが多様な能力と資質を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。さもなければ、重要な仕事が放置されたままとなる。
したがって、特に小企業においては、誰が何に責任を持つか、目的と目標は何か、締め切りはいつかを詳細に決めたトップマネジメント用の工程表を作成する必要がある。トップマネジメントの仕事が組織内の他の活動と異質であるからこそ、それが何であり、トップマネジメント・チームの誰が担当すべきかを明らかにすることが必要となる。」(『マネジメント——課題、責任、実践』)

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

    この登場者の記事一覧をみる