2016/04/04

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スペシャルコラムドラッカー再論

第20回

企業家精神とは。

  • マネジメント
「イノベーションを行おうとしない企業は歳をとり衰弱していく。特に今日のように急激な変化の時代、企業家の時代にあっては、衰弱のスピードは急速である。ひとたび後ろ向きになれば向きを戻すことは至難である」(『イノベーションと企業家精神』1985年)

今週のビジネス誌や新聞の論評に記されていてもまったく違和感ないメッセージだが、これは1985年、ドラッカー75歳のときの書による言である。

当時もドラッカーが「乱気流の時代」と呼んだ通り、世界経済や社会は構造的な変化に加速度がついたような状況であったが、30年を経て、その間、IT・インターネットの爆発的な進化と普及を更なる加速装置として、我々はいま、激流の中で、新たなパラダイムを見出し確立しようともがいている。
そのような中で、求められているのが「企業家精神」の発揮だ。

企業家(起業家)といえば、ベンチャー企業、と認識するが、ドラッカーは「(企業の)規模の大きさそのものはイノベーションや企業家精神の障害とはならない」(『イノベーションと企業家精神』)という。「確かに、よく問題にされる大組織の官僚的体質や保守的体質は、イノベーションと企業家精神にとって深刻な障害となる。しかしそれは中小の組織においても同じである。企業であれ公的機関であれ、最も企業家精神に乏しくイノベーションの体質に欠けているのは、むしろ小さな組織である」(『イノベーションと企業家精神』)。

イノベーションを妨げるのは、企業や組織の規模や新しさではなく、問題は、既存の事業の存在、特にこれまで成功してきた事業の存在なのだ。

「既存の企業は、すでに存在する事業、日常の危機、若干の収益増へと、その生産資源を振り向けてしまいがちだからである。昨日を養い、明日を飢えせる誘惑にかられるからである。それは死に至る誘いである」(『イノベーションと企業家精神』)。

ゆえにドラッカーは、企業家精神とは決して生まれつきのものではなく、意識し、努力し、学ぶことのできるものだと言う。
そして、その条件を4つ挙げている。

・第1に、イノベーションを受け入れ、変化を脅威でなく機会とみなす組織をつくりあげなければならない。企業家としての厳しい仕事を遂行できる組織をつくらなければならない。そして、企業家的な環境を整えるための経営政策と具体的な方策のいくつかを実践しなければならない。

・第2に、イノベーションの成果を体系的に測定しなければならない。あるいは少なくとも評価しなければならない。

・第3に、組織、人事、報酬について特別の措置を講じなければならない。

・第4に、いくつかのタブーを理解しなければならない。行ってはならないことを知らなければならない。

それぞれについて、具体的に詳しく、次回、見てみたい。

(続く)

プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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