2023/08/07
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スペシャルコラムドラッカー再論
第377回
経済的な報酬は積極的な動機づけにはならないことを知るべき。
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
ドラッカーは、企業と働く人との関係において、経済的な部分については意図的に触れないことが多いと自ら述べている。
その理由は次の通り。
「経済的な報酬は、近代産業社会における積極的な動機付けの主たる要因ではないからである。ただし経済的な報酬についての不満は、仕事に対する阻害要因となる。」(『現代の経営』、1954年)
ハーズバーグの二要因理論をご存知の方も多いと思う。人の仕事に対する欲求を「動機付け要因」と「衛生要因」との2つの要因に整理した理論だ。
「動機付け要因」は与えられることで積極的・前向きな満足に繋がるもので、「衛生要因」は与えられてもさしたる満足には繋がらないが与えられないと強い不満につながるものを指す。
ドラッカーによれば、経済的な報酬は「動機付け要因」とはならず、「衛生要因」だと言っていることになるだろう。
「最高の経済的な報酬でさえ、責任や、仕事の適切な組織化に代わることはできない。しかし逆に、いかに優れた非経済的な動機づけといえども、経済的な報酬についての不満を癒すことはできない。」(『現代の経営』)
この主たる問題は、賃金の高低にあるのではないとドラッカーは言う。
「賃金をコストとしてとらえてその柔軟性を必要とする企業側と、賃金を所得としてとらえて安定を望む従業員側との対立である。」(『現代の経営』)
ここでドラッカーは、「雇用賃金プラン」と「年間賃金保障」の二つの賃金プランを提示する。
「雇用賃金プラン」は企業収益・事業収益と賃金を連動させるプランで、「年間賃金保障」は年間の賃金を固定するプランだ。
これについて、ドラッカーは次のように述べている。
「マネジメントにとっては、企業と働き人の双方にとって利益のある「雇用賃金プラン」を選択するか、その双方を傷つける「年間賃金保障」を選択するか、二つに一つの道しかない。企業の力を強化することになる問題の解決か、深刻な紛争と衝突を招くに違いない経済的な不死という空手形か、二つに一つである。」(『現代の経営』)
まずここでドラッカーは「年間賃金保障」についてほぼ完全否定している。
では「雇用賃金プラン」が完全解なのかというと、そうとも言えないところが悩ましい。
「利益分配制度は、従業員に利益の機能を理解させることができない。利益か、差もなければ損失と衰退かという二者択一があるだけであり、利益は絶対的に必要なものであるという認識を与えることができない。」(『現代の経営』)
同じように、従業...
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