2023/05/29
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スペシャルコラムドラッカー再論
第367回
人と仕事のマネジメントに関する、科学的管理法。その第一の盲点とは?
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
人と仕事のマネジメントを論ずるとき、常に出てくるものが人事管理論と人間関係論であるとドラッカーは言う。
「人事部が関心をもっているものもこの2つである。しかし現実にアメリカの産業界において、人と仕事のマネジメントの基礎になっているものは、これら2つの理論ではない。それは科学的管理法である。」(『現代の経営』、1954年)
科学的管理法は仕事そのものに焦点を合わせる。その中核にあるものは、仕事の分析、要素動作への分割、それら要素動作の体系的な改善だ。
科学的管理法は、基本的な考え方だけでなく容易に適用しうる具体的な道具と手法をもつ。その貢献を証明することは容易だとドラッカーは言う。その成果は、生産高の増大となって現れ、目に見ることができ、容易に測定できる。
「事実上、科学的管理法は、人と仕事についての唯一の体系的なコンセプトである。(中略)産業社会が存在し続けるかぎり、人の仕事は体系的に分析し、その最小単位を基礎として改善していくことができるという科学的管理法の洞察が見失われることはない。」(『現代の経営』)
人は数千年(数万年?)に渡って仕事をしてきた。その間、常に仕事の改善を考えてきただろう。
しかし、1885年頃にフレデリック・W・テイラーが手をつけるまで、ほとんど誰も、仕事を体系的に見るということはしなかった。仕事は所与のものと考えきた。
「科学的管理法は、まさに人の解放と啓発につながる偉大な洞察の一つだった。それなくしては人と仕事のマネジメントについて、よき意図、訓戒、督励以上のことは何もできなかったに違いない。科学的管理法の結論に疑念はあっても、その基本的な洞察は、人と仕事のマネジメントにおいて、あらゆる思索と作業に不可欠の基礎となるものである。」(『現代の経営』)
科学的管理法は、1890年から1920年にかけて次から次へと新しい洞察をもたらし、テイラー、フェイヨール、ガント、ギルブレイス夫妻などの独創的な理論家を生み出した。
しかしその後、ながらくの停滞に陥る。
「このような状況の原因は、科学的管理法がその世間的な成功にもかかわらず、実は人と仕事のマネジメントに関わる問題の本当の解決には成功していないことにある。思想の歴史においてしばしば見られるように、科学的管理法の洞察もまた半分の真理にすぎなかった。」(『現代の経営』)
そこには2つの盲点、すなわちエンジニアリング上の盲点と、理念上の盲点があったとドラッカーは指摘する。
第一の盲点は、仕事は単純な要素動作に分...
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