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2023/05/08

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スペシャルコラムドラッカー再論

第365回

企業に対する働く人の要求を明らかにする。

  • マネジメント
  • エグゼクティブ
  • 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

 

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前回、「企業は働く人に対して何を求めなければならないか」について見たが、同時に「働く人は企業に対して何を求めなければならないか」も重要だ。

 

「働く人として企業に対して要求を突きつけるのは人格をもつ人であって、単なる経済的存在ではない。彼らは経済的な報酬を超えて、個として、人として、市民として見返りを要求する。仕事において、仕事を通じて、地位と機能の実現を求める。」(『現代の経営』、1954年)

 

ドラッカーは加えて、彼らは現代社会の基盤となっている約束の実現、特に自らの進歩と昇進への平等な機会という正義の実現を求める。さらには仕事の意義と真摯さを求める、と述べている。

 

「すなわち、仕事ぶりについての高い水準、仕事の組織とそのマネジメントに関わる能力についての高い基準、優れた仕事に対する明らかな関心こそ、働く人が企業とそのマネジメントに要求するものの中でも特に重要である。」(『現代の経営』)

 

ドラッカーらしい見方だと感じる。企業は人格を持つ人を雇うが、その人格を持つ人を自由に支配する権利は企業にはない。
企業は、あくまでも社会の中の一機関に過ぎないものとして、個人に対する要求においても、彼らに与える満足においても、そのあるべき領域に留まらなければならない。

 

「働く人に対し、絶対的な忠誠を求めることも、絶対的な責任を約束することも、いずれも許されない。」(『現代の経営』)

 

企業は2つの経済システム、すなわち企業外部の経済システムと企業内部の経済システムの2つのシステムを持つとドラッカーは言う。
内部の経済システムに必要なもののすべてが、市場という外部の経済システムにおいて製品の対価として受け取るものによって左右される。

 

「内部のシステムは市場経済ではない。それは企業全体の成果が予め定められた方式によって企業内の成員に分配される再分配経済である。市場経済と再分配経済は異質の経済システムである。そして企業は、この2つの経済システムを結合させた初めての人間組織である。」(『現代の経営』)

 

ここにおいてマネジメントの努力は、常に企業全体がより多くを受け取ること、すなわち企業全体の生産を大きくすることに向けられ、企業に働く人の関心は企業全体の生産がどうであろうとも、自らの分け前をより大きくすることに向けられるとドラッカーは指摘する。

 

象徴的なものが賃金だ。企業にとって、賃金~労働の報酬は必然的にコストである。しかしその受け手である働く人にとっては、賃金は収入~自身と家族の生計の糧である。
こ...

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プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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