2023/01/26
1/1ページ
成功する経営者は皆、多読家。「TERRACEの本棚」
第163回
デジタル技術が生み出す「具体の谷」にはまっていませんか。/見えないものを見る「抽象の目」「具体の谷」からの脱出
- ビジネススキル
- 組織
- 経営
- 齊藤 智子氏 中央公論新社 ノンフィクション編集部
成功する経営者は皆、多読家。「TERRACEの本棚」では、成功している経営者が注目している、読んでいる書籍をご紹介してまいります。
今回は、『見えないものを見る「抽象の目」「具体の谷」からの脱出』。本書の編集を手掛けられた、中央公論新社の齊藤智子氏に見どころを伺いました。
世の中は「見えない世界」がどんどん広がっている――これは、著者である細谷さんが、本書の企画を構想した2019年から、ずっと感じていたことでした。2020年にコロナが本格的に流行りだして以降、大学でもオンライン授業が主となり、物理的に動かずとも物事が進む生活となり、これが“普通”として受け入れられる世界となっていったのです。
本書は、デジタル社会が加速し、もっと先の「見えていない」世界を見据えた発想力を持つため、細谷さんが思考力を養うために用いる「具体と抽象」というテーマに当てはめ、新しい視点の持ち方を提供する1冊です。
「はじめに」の中で、細谷さんは私たちの生活に欠かせない存在となった身近なデジタル技術を例に、以下のように述べています。
「カーナビ」や「地図アプリ」は、「地図を広げて現在地から目的地までの行程を確認する」という行為を、目的地の入力だけで「次はどこで曲がるか」という極めて近視眼的な行為で用が済むようになり、「大きな全体像を見て全体のバランスを考える」などといったものの見方が「退化」しつつあるのではないかと思います。
「スマホニュースのチェック」は、地図と同様大きな紙を広げて活字の全体像を追うという行為がなくなり、新聞記事→Webページ→SNS(Twitterは140文字)→ネットニュースの見出し(Yahoo!ニュースは15.5文字)と、一気に読む文字数の「視野」も多くの人にとっては狭くなる一方になりつつあります。要は世の中が「細切れ化」しているのです。
さらにネットニュースやYouTube等の動画サイトは「検索すればなんでも見られる」という、見えない世界の天文学的な拡大の側面がある一方、良くも悪くも自分にカスタマイズされた情報が選択的にリコメンドされてくるために、見ているコンテンツの対象範囲が、カスタマイズされないテレビ番組を情報源としているのに比べてどんどん狭まってくることも、多くの人たちの視野が狭まる一因になっています。
このように、デジタル技術は私たちを便利な生活にいざなうと同時に、すぐ先のことまでしか考えなくなるという形で、私たちの「視野」を格段に狭めつつあります。
さらにもう一点、本書の核心に関わる視点としてスマホによる視野狭窄は「もう一つの視野」も狭めています。
それは、「事象の関係性」です。地図や時刻表、あるいは新聞では、各地点、各電車、各記事がどのように関連し、つながっているかということを無意識のうちに認識していたわけですが、スマホとアプリはこれらの関係性を切断することによって事象の関係性という抽象概念をも見にくくすることにつながっているのです。
デジタル技術の発展による「世界の拡大」と「視野の狭小化」により、多...
こちらは会員限定記事です。
無料会員登録をしていただくと続きをお読みいただけます。