2021/07/19
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スペシャルコラムドラッカー再論
第276回
ベンチャーにおける企業家の貢献と責務。
- イノベーション
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 井上 和幸 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
読者経営者の皆さんには既に充分ご理解されている通り、ドラッカーはトップマネジメントについて最も重要なことはチーム(トップマネジメント・チーム)を組成することだと繰り返し述べている。これはベンチャーマネジメントにおいてもなんら変わりはない。
「しかし、創業者自身にとってそれは事の始まりにすぎない。ベンチャーが発展し成長するに伴い、創業者たる企業家の役割は変わらざるをえない。これを受け入れなければ事業は窒息し崩壊する。」(『イノベーションと企業家精神』、1985年)
これについては概ねの創業者たちはイエスと同意する。だが、何かをしなければならないことはわかっても、何をしなければいならないのか、自らの役割をどのように変えていけばよいのかを知っている創業者はあまりいないとドラッカー指摘する。
「彼らは、「何をしたいか」から考える。あるいは、「自らは何に向いているか」を考えるのがせいぜいである。しかし、問うべき正しい問いは、「客観的に見て、今後事業にとって重要なことは何か」である。創業者たる企業家は、この問いを、事業が大きく伸びたとき、さらには製品、サービス、市場、あるいは必要とする人材が大きく変わったとき、必ず自問しなければならない。」(『イノベーションと企業家精神』)
そして更にその次に問うべき問いが、「自らの強みは何か」「事業にとって必要なことのうち自らが貢献できるもの、他に抜きんでて貢献できるものは何か」である。
これらの問いを徹底的に考えることによって初めて、「自分は何をしたいか」「何に価値を置いているか」「残りの人生すべてとまだはいかなくとも、今後何をしたいか」「それは事業にとって本当に必要か、基本的かつ不可欠な貢献か」を問うことができる。
「自分は何が得意で何が不得意かとの問いこそ、ベンチャーに成功の兆しが見えたところで、創業者たる企業家が向き合い考えなければならない問題である。しかし、本来はそのはるか前から考えておくべきことである。あるいはベンチャーを始める前に考えておくべきことかもしれない。」(『イノベーションと企業家精神』)
これらのことからしても、ベンチャー創業者には外部の人間の客観的なアドバイスが必要だ。
創業者たる企業家に対し、質問をし、意思決定を評価し、市場志向、財務見通し、トップマネジメント・チームの構築など生き残りのための条件を満たすよう絶えず迫っていく必要がある。これこそベンチャーが企業家マネジメントを実現するための最大の要件である。
「あまりに多くのベンチャー、特にハイテクのベンチャーが、これら企業家としての原理...
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