2021/06/07
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スペシャルコラムドラッカー再論
第270回
企業家精神のための人事。
- イノベーション
- マネジメント
- エグゼクティブ
- 株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO 井上和幸
イノベーションと企業家精神のために、いかに人事を行うか。これは自社がそうありたいと願うすべての経営者が考えることだろう。(そして最も頭を悩ませ続けることだ。)
そもそも既存の企業にイノベーターは存在しうるのか。企業家(起業家)とは一般企業には存在しない特殊な人種なのだろうか。
「この問題を扱っている文献はたくさんある。企業家的な個性やイノベーションしか行わない人物についての物語は多い。しかし、経験の教えるところによれば、それらの議論にはほとんど意味がない。そもそも企業家的であることが苦手な人たちが、進んでそのような仕事を引き受けるはずがない。はなはだしいミスマッチは起こりようがない。」(『イノベーションと企業家精神』、1985年)
「企業家的な企業」=イノベーティブな企業では、企業家的な仕事を立派にこなす人は、既存の仕事でも成果を挙げる。誰が仕事をうまく行えるかを心配する必要はない。あらゆる性格と経歴の人たちが同じようによい仕事をしている。
また、企業家的な事業に成功した人たちのその後についても心配する必要はない。確かに新しいものを始めることには興味があるが、その後のマネジメントはしたくないという人はいる。そもそも企業家以外のものになりたくない人たちは、最初から既存の企業にはそう多くは存在しない。
「企業家精神とは個性の問題ではなく、行動、原理、方法の問題であることを最もよく示す事実として、アメリカでは大企業を辞めた後、第二の人生として企業家の道を選ぶ中高年が急増していることが挙げられる。」(『イノベーションと企業家精神』)
ドラッカーは、既に1985年当時、大手で25年、30年と過ごしてきたマネジメントや専門職の人たちが、早期退職し50歳、55歳で企業家として独立し成功していることに触れている。
ドラッカーが、こうした第二の人生に踏み出し成功した人たちに、大企業時代といまとで落差や環境変化に欲求不満や挫折を感じたことはないかを聞いた際に、彼らの答えは「その質問時代がおかしい」いうものだったそうだ。
「彼らの一人はこういった。「優れたマネジメントというものは、どこへ行っても優れたマネジメントである。(売上数十億ドルの以前の大企業であれ、売上数百万ドルの現在のベンチャーであれ違いはない。)もちろん仕事の内容ややり方は違う。だが考え方や分析の仕方は同じだ。10年前に技術畑からマネジメントの仕事に移ったときよりも、今度の転職のほうが簡単だった」。この発言にはほかの出席者もうなずいていた。」(『イノベーションと企業家精神』)
もちろん誰もが管理者...
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